1番いい肉
厨房には忙しそうに料理の下ごしらえをしている料理人達がいた。
『料理長すまないが、1番いい肉を最高の焼き加減で調理してくれないか?』
料理長は今夜の献立の段取りを考えていたのか、不機嫌そうに返事をした。『隊長さん、悪いが今日の献立はもう決まっているんですよ。ちなみに明日も明後日も決まっているんですよ』『それは承知しているが、緊急事態だ。神子様が今此方にいらしているからどうしても最高の肉が今必要なんだ』
料理長をはじめ、料理の下ごしらえをしていた全員が信じられないような顔をして此方を向いた。
『神子様は今は眠っていらっしゃる。目覚めた時に最高の肉があったら嬉しいだろう?』
すると料理長は食い気味に聞いてきた『神子様はどんな感じだ?体格はどうだ?どれくらい食べられそうだ?お疲れなのか?肉が好きなのか?それともスープとか胃に優しい物がいいのか?』
私は呆気にとられたが、神子様の様子を思い出しながら答えた
『神子様はとても痩せていらっしゃる。頭と足に怪我もしておられた。食欲があるかは分からないが、肉のいい匂いを感じたら食べるだろう?』
料理長は最初に話し掛けた時より目を釣り上げて興奮しながら宣言した。
『隊長さんよ!アンタには任せておけない!神子様の食事は俺に任せて貰おう。もし神子様がしばらく食べていないようなら、急に肉なんて食べさせたら死んじまう。まずは胃に優しい食べ物からだ!』
それから神子様がいつ頃起きるのか分からないからいつ起きても食べられるようにしてくれる事と、神子様から食材についてなど直接話を聞きたいとがあるから起きたら知らせるように約束させられた。
(まさか肉を食べたら死んでしまう事があるとは思わなかった。私はいつ肉を食べても元気になれるというのに、不思議なものだな。しかし専門家というのは侮れないな)
厨房からの帰り道反省をしながら自室に向かっていると、部下が探していたと私を応接室の方に引っ張っていった。
室内に入ると若干頭皮の寂しい身なりの良い小太りの中年男性が座っていた。
『お初にお目にかかる。私はこの街を仕切っているガーランドと言う。』
『これはご丁寧にどうも。騎士団から派遣された第五隊隊長レオンハルトです。』
お互いに名乗り握手を済ませると早速本題に入って来た。
『この街に神子様がいらっしゃると聞いて来たのだが、神子様は今どちらに居られるのかご存知だろうか?』
(ちっ。権力者というのは本当に面倒だ)
神子様の話を聞きつけてあわよくば手に入れたいと思ったのだろう『神子様は満身創痍で発見されて今はまだ目覚めておりません。体も細く怪我もされているので、迂闊に動かす事もできません』
ガーランドは部屋を見回し、窓からの景色を見やり心底馬鹿にした表情をしながら『だがこんな場所よりも私の屋敷の方が落ち着いて療養できるだろう。ここには神子様を癒やしてくれる花の1本もないようだしな。私の屋敷には見事な庭園も完備されているんだぞ』
『お言葉ですが、それらの楽しみは体が回復してからの話。今無理にここから移動するほどの事ではないかと』
それから細かい事を色々と言ってきたが、私はナイ…神子様を手放す気など毛頭ない。(花が無ければ植えればいい。部屋には私が買ってきた花を活けてやろう。この男は鬱陶しいが、私には思い付かなかった細かい気遣いは褒めてやろう。私にもっと知恵を授けるがいい。そしてさっさと帰れ!)
しばらく粘っていたが、私が一歩も引かないと分かると渋々帰っていった。
一度部屋に戻り神子様の顔を見てまだ目覚めそうにはない事を確認して、部屋の前の部下に花屋に行く事を告げて詰所を出た。