隊長の部屋
どうして神子様が盗賊なんかと一緒にいたのか、満身創痍なのか、気になる事が多すぎたがやる事は一つ。些事は置いておき、まずやる事は神子様の手当てと安全な場所の確保だ。
荷車に載せられた小さな神子様は眠っているようだった。神子様をよく見てみると黒髪は血で固まっており、服にはべっとりと乾いた血がついていた。他に怪我はないかと見ていると、服の下は古い物から新しい物まで痣だらけだった。靴は履いておらず、足の裏にも新しい傷がいくつもついていた。腕や足も折れそうなほどに細かった。神子様がこれまでどんな環境で生きてきたのか想像すると胸が潰れそうになった。
この街には大きな宿はないし、清潔だとも言い難い。こんな田舎町には医者もいる訳もなく、神子様を運び込むのは騎士団の詰所しかないと結論付けた。幸い私は隊長格だったので自室は広く清潔だった。部下には『王都の騎士団本部と王家に神子様が発見されたと伝達してくれ。それと神子様は私の部屋で療養していただく』と言い残して神子様に負担がかからないようにそっと抱き上げ誰にも咎められる前に自室に丁寧に移動させた。
一目見たときから分かってはいたが、あまりに軽すぎる。触れただけで折れてしまいそうな体だった。
神子様が眠っているうちに頭と足の裏の傷の手当と髪の毛を綺麗に拭き取る事にした。頭の傷は幸いな事に服についた出血に対してそう深くはなさそうだった。神子様の黒髪はサラサラで黒猫のナイの手触りとよく似ていた。
神子様の服は汚れていたので、医務室から拝借してきた前開きの服を着替えさせたが詰所にある服はどれもガタイのいい体に合わせた物なので、神子様の鎖骨が見えてしまうし袖は指の先まで隠れてしまい丈は長すぎてズボンは履かなくてよさそうになってしまったが上から布団をかければ何の問題もない。
こうしてとりあえず神子様をベットに寝かせる事はできた。
神子様は目が覚めたら見慣れない景色に恐怖のあまり逃げ出してしまうかもしれない。目が覚めた時に安心して貰えるように最善を尽くすしかない。だが、見知らぬ場所で見知らぬ人物が隣にいたら神子様は怯えてしまうだろうか?かと言って一人にしてしまうという選択肢もない。
ずっと男所帯のむさ苦しい騎士団にいたせいか、繊細な気遣いなんていう物は自分の中には無かった。安心させる為には何が必要か考えてみた。
(やはり食べ物がいいのではないか?肉を焼く美味そうな匂いというものは人を無防備にする)
神子様の顔を覗き込んでみてもまだ起きる気配は無さそうだ。今のうちに厨房に行って頼んで来たほうがいいだろう。
部屋の外に部下を1人配置して、もし室内に動きがあれば神子様に悟られないように私を呼ぶように指示して厨房に向かった。