洞窟
とりあえず顔が血でカピカピしていたのと、喉が渇いていたので水場を探す事にした。
いざ移動しようと1歩踏み出した時に足の裏に小石が刺さった。そして屈んだ時に息が止まるほどの激痛で結局1歩も動く事が出来なかった。このまま犯人に見つかるか、干乾びて死ぬかの2択だと諦めた。
(どうせ死ぬなら好きな事をして死んでやる)
思いっきり息を吸い込むと肋骨が痛むので、控えめに息を吸い込み歌い始めた。故郷にいい思い出はひとつもないけれど、最期に歌うならこれだと思って故郷を歌った。
「♪〜♫〜」
洞窟のアジトで見張りについていた仲間と話していると、どこからか不思議な声が聞こえてきた。
『おい。なんか聞こえんぞ?』
『お、こっちから聞こえてくるぞ。誰かいるのか?』
『はあ?こんな山奥の俺らのアジトくらいしかないとこ来るわきゃねーよ』
声を頼りに2人でアジトの出入り口付近まで歩いて行くと、子供が岩を背に座り込んでいた。
『おい!あそこに座ってるやつ、よく見てみろよ!おい嘘だろ…黒髪だ!!』
『おいおいおい!!どうすんだよ!血だらけだぞ!』
『しらねーよ!しらねーけど、このまま見なかった事にしたら…死ぬよな?』
『だめだ!それだけはだめだ!!でもどうする??』
『とりあえずあれだ!なんでここにいるのか聞いてみろ!』
『俺?なんで俺なんだよ!もし何かあって死んじまったらどーすんだよ!』
『でもなんか今にも死にそうじゃねーか!早くどうにかした方がいいって!』
お互いパニックになりながらも、神子様を死なせる訳にもいかず近くまで行ってみる事にした。
神子様は頭を怪我しているのか、顔中乾いた血がこびりついて痛々しい姿をしていた。とりあえず驚かせてコロッと死なないように、人生で1番優しい声を出してみる事にした。
『あのう。神子様がどうしてこんなところで死にそうなんですかい?』
人生最期の歌を気持ち良く歌っていると、気が付かないうちに誘拐犯が戻ってきていた。顔は見るからに外国人で、何やら話し掛けてくるものの、言葉がひとつも聞き取れない。
「!!」
(うわ!誘拐犯が戻って来た。どうしよう。でも大人2人と満身創痍な僕じゃ勝ち目はない。どうせ死ぬんだし、死んだふりをしてみよう)
いつものように瞑想をして、外部の情報を遮断した。
話し掛けると、突然神子様は蹲って死んでしまった。
終わった。人生終わった。結構終わったと思っていた人生が本格的に終わった。
『おおおおい!おい!!やべえ!!!話し掛けたら神子様が死んだ!!どうすんだ!!』
『まてまてまて!まだ死んだと決まった訳じゃねーよ!』
人間、自分よりパニックに陥っている奴を見ると少し冷静になれるらしい。人間は中々しぶとい。さっきまで話していたのに急に死ぬ事はあまり無い。ないはずだ!頼む!ないと言ってくれ!!
『とにかくあれだ!息だ!息をしてるか確かめるぞ!』
神子様に触れないように注意をしつつ、顔の前に手を翳してみると息をしているのを感じた。セーフ。俺の首が繋がった!
『とりあえず息はしてるな。よし!生きてる!!』
『いや、今は生きてるけど今にも死にそうじゃねーか…』
『『・・・。』』
このまま放っておく選択肢は消えた…。
『あー。しゃーねーな。街に行くしかねえな』
『街に出た瞬間に捕まんねーか?』
俺達は盗賊だ。騎士団に会ったら問答無用で殺される程度には指名手配されている。普段なら天地がひっくり返っても、騎士団に関わる事はしない。
『そんな事言ったってよー。このまま見捨てる訳にいかねーだろ』
『くそっ!!面倒な事になった!あーこんな事なら昨日有り金全部使っとくべきだったわー』
『でもワンチャン神子様を保護したって功績で見逃してくれるかもしんねえ』
これまで散々好き勝手やってきたツケを払う時がやってきたとしか思えない。もうほぼない希望に縋るしか生きる道は残されていない。
『はあ。神子様が死ぬ前に街に行くか』
とりあえず川の水で血で汚れた神子様の顔を綺麗にした。盗賊のアジトに戻って1番綺麗そうに見える布で神子様を包んで、その時にふと思った。
『なあ、神子様はなんでこんなに血まみれの痣だらけなんだ?』
『俺が知るかよ。そもそもこの世界で神子様に手を出す馬鹿がいるのか?』
『いくら俺らでも神子様に何かしようなんざ思いもしねーよな』
『なあ、その事を騎士団のやつらが信じると思うか?』
『『・・・。』』
どう考えても絶望的に未来がない。だがこのまま神子様が死んだら取り返しがつかない。
『分からねーけど、もう腹を括るしかねーだろ』
『はあ。だよなー。行くかー』
神子様の容態がなるべ悪くならないように、布を詰め込んだ荷車の荷台に横たえて街まで行く事にした。