僕の事
僕には居場所が無かった。
僕に家族はいない。僕が小さい頃に両親は事故で亡くなったと聞いた。父の兄が仕方無く僕を引き取ったらしい。その頃まだ保育園児だった僕には両親の記憶はなく、1番古い記憶では義理の両親に「お前は家の子供ではないから全ての事に感謝をして生きて行け」と繰り返し言い聞かされていた事だ。
当時まだ両親が亡くなった事を理解出来ずに、度々泣き出す事があった。その度に「うるさい!泣いたって誰もお前に同情なんてしない。そんな暇があるなら雑草の1本でも抜いて役に立て!」そう言いながら泣き止むまで叩かれた。次第に感情を出すと殴られると理解した僕は心を固く閉ざしていった。
僕が引き取られた家には、一郎と言う4才上の兄と茉莉花と言う1才上の姉がいた。一郎は両親が僕にだけ厳しく、手を上げるのを見て僕にはこの家では何をしてもいい存在だと思っていた。
普段は見向きもしないのに、その日は珍しく兄から話しかけてきた「お前にこのオモチャ貸してやる」嫌な予感がしつつも、断るとまた面倒な事になると思って黙って受け取った。
すると一郎は母親の所に行って、興奮気味に話しだした
「母さん、詩音が俺のオモチャを壊した!」
それを聞いた瞬間、鬼の様な形相をして殴られた。
「なんて酷い事をするの!育てて貰ってる恩を仇で返すつもりなの!?」
一郎はこのやり取りには興味が無さそうに、母親に纏わりついた「母さん、オモチャ壊れたから新しいやつ買ってよー」
一郎のせいで殴られたが、一郎のおかげで1発殴られただけで済んだらしい「仕方がないわね。次はもう詩音に貸したら駄目よ」
その後当然夕飯は抜かれて、外からは見えない庭の隅で日付が変わるまで立たされた。
翌日一郎が昨日あった話を茉莉花にすると「お兄ちゃんズルい!私も新しいオモチャほしい!」と言い出した時に、たまらず外に飛び出した。
もう何度思ったのか分からない。
(どうして両親は僕だけ置いていってしまったんだろう?)
地獄のような毎日、生きている意味も分からない。
このままどこかのビルから飛び降りてしまおうか?
でもその度に、見た事もない両親の悲しそうな様子が浮かんできてしまい結局実行できずにいた。
家にいたくはないが、やらなければならない事はあった。平日は家中の掃除や洗濯物を畳んで夕飯の食材を買い出しに行く事になっていた。
学校では一年中長袖長ズボンを着ていて感情を出す事が出来ない僕は浮いていて、友達も出来た事はなかったが少なくとも暴力は受けないし、皆放っておいてくれるので息はしやすかった。
小学校4年になると、部活動に強制参加しなければいけない学校のルールがあった。部活動はサッカー、バレー、合唱、吹奏楽の中から選ぶ事ができた。
僕は運動は全く出来ないし、楽器も触った事が無かったから合唱部に入る事にした。
週2回放課後に音楽室で歌を歌う。僕は今まで何一つ楽しいと思える事は無かったのに、歌を歌うのは好きだった。大きな声を出せばスッキリするし、合唱するのも楽しかった。
何より道具がなくてもいつでも出来る所が良かった。僕が個人的に何かを持つのは許されない環境だったからだ。