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失踪②

 瑠璃羽はポルノショップを飛び出し、そのまま職業斡旋所へ向かった。四六時中、外に立っているとのことだが、商業に栄えた紅花地区ではそのような光景はそこら中にある。


 瑠璃羽は、守宮が職業斡旋所の人間を兄貴と呼んでいたのを覚えていた。特徴的な爬虫類のような顔。実の兄弟であれば、似た顔をしているのではないかと思い、瑠璃羽は立って客引きをしている人間1人1人の顔を確認し始めた。


 そして、睨んだ通り、客引きをしている人間の中に、守宮と同じく爬虫類のような顔をした男がいた。男が石竜子だと確信した瑠璃羽は、その目前まで近付くと、即本題を切り出した。


「あんたが石竜子さん? この辺で小さい女の子、見なかった?」


「なんだよ急に……確かに、僕が石竜子だけど。小さい女の子? そんなの、いくらでもいる」


「このくらいの、髪がうねってる女の子。百香っていうの。明るい感じの、この辺には来ないから見かけたことないと思う。そんな子なんだけど」


「あぁ、そういえば……」


 瑠璃羽から百香のことを聞いた石竜子は、何かを思い出したようで、店の奥に入り、名簿を持って戻ってきた。


「ここに書いてある。瀬尾百香だね? ここで仕事を紹介してもらえるっていうのをね、どこから聞いたのか知らないけど、さっき来たよ」


「それで、百香は……」


「追い返したさ。彼女、霧笛町に住んでるっていうじゃない。そんな子を紹介したら、僕の方が干上がるんでね」


「そう……」


 地下では霧笛町の住人は差別の対象。店で雇ってもらえることはなく、霧笛町以外では夜鷹すらできない。今まで売春をしたことのない百香は、そんなことも知らず、健気にも金を稼ごうと斡旋所を訪れていたのだ。


「そういえば、彼女、売春もしてないんだね。霧笛町出身であの年まで体を売らないなんて珍しいよ」


「そうだよ。あの子は母親が……代わりにやってたから……」


「そう。彼女も驚いてたよ」


「え?」


「言った。霧笛町の人間が金を稼ぐなら、その辺で売春でもしてろって。母親と同じようにね」


「なんでそんな、言わなくたっていいじゃん。母親は知られないようにしてたってのに」


「霧笛町の売春婦は遅かれ早かれ、すぐに亡くなるだろ。それなら、店に入れないんだから、彼女も知った方がいい。母親が何をして稼いで、自分もそうしないといけないってこと」


 それを聞いた瑠璃羽は、もう話をする気になれなかった。


「わかった。もういいよ……」


「そう。じゃあ、さよなら」


 石竜子は瑠璃羽を振り返ることもなく、店の前に立ち、客引きを再開した。


 斡旋所を出た瑠璃羽は、とぼとぼと歩いていた。


 小百合が売春をしていることに、瑠璃羽は薄々気付いていた。しかし、百香にそれを言うことはなかった。


 地下で暮らす以上、いつかは知ることになるだろう。百香が売春をし始める可能性も高い。それでも、小百合は言いたくなかったのだろう。だから、瑠璃羽も何も言わなかったのだ。


 それを、百香が招いたこととはいえ、無関係の男に壊されてしまった。おそらく、百香は売春をするだろう。そうなった場合、その現実は病床にいる小百合に、どのような影響を与えるだろうか。


 考えれば考えるほど、瑠璃羽の頭は痛んだ。


 しかし、悩んでばかりもいられない。百香はまだ見つかっていないのだ。


 瑠璃羽は一度、家に戻ろうかとも考えたが、もしもまだ紅花地区にいるのであれば、妙なことをする前に連れ戻さなければならない。


 石竜子と話した内容が全てであれば、百香は、地下では売春をすることが普通であり、母親もそうしていたということ、そして霧笛町出身であれば店で働くことはできないという事実を知っただけということになる。


 霧笛町の人間であるというだけで店で働くことはできない。


 その事実を、本当に文字通りのまま受け取っていたとしたら。


 その裏にある、いや、表に出ている差別が何を示すかにまで頭が回らなければ。


 もしも、その状態で百香が売春を始めるとすれば。


 霧笛町の人間が、霧笛町以外で売春をする危険性。それを百香は知らないではないか。


 瑠璃羽の顔は、一気に青ざめ、その足を動かした。百香が家に戻っていることを祈り、一気に来た道を戻り始めた。

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