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失踪①

 無事、満月街からの脱出に成功した瑠璃羽。追っ手はすでに瑠璃羽を捉えるのを諦めたのか、大通りにも、大門の近くにも、その姿は見えなかった。


 瑠璃羽は住人たちに見られないよう、こっそりと霧笛町に入ると、息を整え、瀬尾家の扉を開いた。


「ごめん……薬、手に入らなかっ……あれ? 百香は……?」


 家の中には、すうすうと寝息を立てる小百合しかいなかった。この家には居間しかないため、他の部屋にいる、などということは考えられない。で、あれば、外にある便所に行ったのかと思い向かったが、そこにも百香の姿はなかった。


 ここ数日、金を稼ぎ、瀬尾家に食料を持ってきているのは瑠璃羽だ。仕事をしていない百香が金を持っている筈はない。わずかな貯金も尽きている。薬や食料を買いに行った可能性は低い。


 様々な可能性を考えながら、便所から再度、家に戻った瑠璃羽は、腐りかけのちゃぶ台の上に、一枚の紙が置かれているのに気が付いた。


『おかあさん ルリねえちゃん わたしもおかねをかせぎます。しごとをさがしてきます』


 それを見た瑠璃羽の顔は青ざめた。満月街か、紅花地区にある風俗街である南満月町にある店に行っていれば良いが、そうでなければ。


 瑠璃羽は急いで家を飛び出した。



*****



 地下には、2つの巨大遊郭が存在する。

 1つは高級遊郭である満月街。そしてもう1つ、満月街に次ぐ遊郭を作ろうと地下住人たちが起こした、南満月町がある。


 南満月町は紅花地区に属しており、満月街よりは劣るが、遊郭として、かなり栄えている。しかし主な客は地下住人のため、満月街ほどの経済的な余裕があるわけではなく、日々激しい客の取り合いが行われている。


 地下には、どこの店にも属さず、自身の家や道端でサービスを行う夜鷹が多い。しかし、南満月町で夜鷹をするのであれば、縄張りを守らなければならない。


 風俗街である南満月町で夜鷹をする者は相当数いるが、彼等、彼女等は縄張りを含めた様々なルールを守っている。それは、地下で体を売る者であれば常識といっても良いことだった。


 しかし、百香にその常識は存在しない。普通、地下で女として生まれたのであれば、もっと早くに売春を始めるし、その過程で母親や周囲の売春婦から常識を学んだり、もしくは痛い目に遭うことで自らルールを把握していくのだ。


 百香は小百合に守られていた。小百合が倒れてからは瑠璃羽がいた。地下の常識を学ぶ機会などなかった。もしも、今の状態で南満月町に行ったとしたら。


いや、それ以上に、百香が霧笛町に住んでいるということが…………


 店で雇ってもらえるように、頭を下げているならいい。それなら連れ戻せばいいだけの話だからだ。


 瑠璃羽は祈るような気持ちで、紅花地区に向かった。



*****



 瑠璃羽は紅花地区に足を踏み入れた。


 満月街に次ぐ遊郭、格安宿、闇市、闇金融、ポルノショップ、職業斡旋所。


 地下で最も栄えている地区といっても過言ではないだろう。


 瑠璃羽は広大な面積を誇る紅花地区から、百香の行先を思案した。


 まず、ポルノショップはあり得ない。ポルノショップでは主に使用済みの衣服や下着、排泄物などを取り扱っていると聞いたことがあったが、瀬尾家の衣類は瑠璃羽が売りに出したばかりで、もう売るものなどないからだ。


 とはいえ、あくまでもこれは瑠璃羽の予想である。働き口を探すため、手当たり次第に店を訪ねている可能性もある。そう考えた瑠璃羽は、自身も手当たり次第に店を訪ね、百香を探すことに決めた。


 まず瑠璃羽は、真っ先に目に入ったポルノショップを訪ねた。薄暗い地下に気味の悪いネオンサイン、そこに“きらきら☆ついんて〜る”というポップな店名が、より一層気持ち悪さを際立たせている。


「ごめんくださーい……」


「はい、お客さん?」


 瑠璃羽が声をかけると、店の奥から男が現れた。マスクをつけていて表情はよくわからないが、ぎょろりとした大きな目は、爬虫類を連想させた。


「いや、あの、客ではないんだけど。こんな感じの、小さい女の子見なかった?」


「何? 人探し……?」


 男はあからさまに溜め息をつくと、受付に置いてある椅子にどっしりと腰を下ろし、タバコを吸い始めた。


「その子は知らないけど、うちの兄貴なら見てるんじゃない? ここから少し向こうに行ったところの職業斡旋所」


「斡旋所?」


「そう。仕事探しに来た人に店を紹介してる。四六時中、外に立ってるから。てか、ここにいてそんなことも知らないって、あんた何してたの? どこの人?」


 男は嫌味たらしく、瑠璃羽を揶揄った。瑠璃羽は月下楼にいた時、満月街の外からやって来た遊女に地下のことを色々と教わっていた。しかし、月下楼からロクに出たこともない瑠璃羽は、ほとんど地下のことを知らないといっても良かった。


「満月街にいた……あんまり出たことなくて……」


「そ。じゃ、仕方ないのかな……まぁ、行ってごらんよ。兄貴は有目石竜子(ありめとかげ)。僕は守宮(やもり)。覚えていてね」


「ありがと……」


 瑠璃羽は礼を言うと、そのままポルノショップを飛び出した。


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