二度目の窃取②
ゆっくりと振り向いた瑠璃羽の視線の先にいたのは、艶鈴楼で面倒を見られている禿の少女だった。禿は瑠璃羽が振り向いたのを見るや否や、叫びながら走り出した。
「泥棒がいる! 誰か!」
その声に反応した、おそらく雇い人か内儀であろう人物の足音がバタバタと響く。
こうなると、もはや薬を探すどころではない。瑠璃羽は部屋を急いで出ると、人の気配を感じない方向に向かって滅茶苦茶に走り出した。
「待て! このコソ泥が!」
瑠璃羽は月下楼から逃げた時のように、とにかく必死に走り続けた。土間を抜け、内所を通り、裏口を目指した。
月下楼から逃げた時、失敗して金も何もかも失った。そして今回も、目当てのものを盗むことに失敗した。瑠璃羽は喉の奥から込み上げてくる何かを飲み込みながら、裏口を出た。
このまま満月街を出ようかとも考えたが、おそらく、そういった行動を瑠璃羽が取ることは追っ手も予測して大門に向かうだろう。そこで瑠璃羽は追っ手が諦めるまで、満月街の中に身を潜めることに決めた。
瑠璃羽は裏口付近に生い茂る木々や雑草の間を通り抜けていった。その向こうに古びた小屋が見えており、そこに隠れようと考えたのだ。
満月街の住人は妓楼や店をそのまま住居にしているか、満月街の外に家を持っているかのどちらかだ。妓楼や店は客寄せのために美しい外観に作られているため、古びた小屋などは大抵は物置きとして使用されている。つまり、誰かが中にいる可能性は限りなく低い。
そう確信していた瑠璃羽は、響く怒号を遠ざけるように、真っ直ぐと小屋へ向かった。
その先に何があるとも知らずに。
*****
瑠璃羽は手足に切り傷を作りながらも、なんとか小屋に辿り着いた。
遠く背後には艶鈴楼。そして小屋を挟んで、向かいに中国風の煌びやかな建物がある。おそらく、小屋はこの建物に付属しているものだろうと瑠璃羽は考えた。
小屋に忍び込もうとした瑠璃羽は、はっと気が付き、急いで飛び退いた。小屋の入り口付近は監視カメラで見張られていたのだ。
幸いにも、瑠璃羽はまだ監視カメラの死角にいた。このまま、この小屋の近くでやり過ごそうかとも考えたが、万が一追っ手に気付かれてはいけない。瑠璃羽は仕方なく、小屋へ入る方法を探すことにした。
小屋の周辺を、カメラに映らないようにぐるぐると回っていた瑠璃羽は、あることに気が付いた。複数ある窓全てに格子が取り付けられているのだ。
窓に格子をつけるのは、窓を保護するためか、侵入者を防ぐためか。
或いは、中にいるものを外に出さないためか。
侵入口を探しながらも、瑠璃羽は思考を巡らせていた。そうしながら小屋の裏に回った時、開きっぱなしになっている扉を発見した。
瑠璃羽は、なぜ扉が開いたままなのか、その意味すら考えず、とにかく追っ手から身を隠したい一心で中に飛び込んだ。
そこで瑠璃羽が見たのは、まるで人間の醜悪さを形として表したような光景だった。




