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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第四章

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第二話 ギターとの出会い(三)

 あるときハヤトは、思い切って練習中のワタルに声をかけた。


「ワタル……兄さん、それ、そんなに楽しい?」


 ギターを弾く手が止まり、部屋に静けさが戻る。

 ワタルは顔を上げハヤトを見た。


 練習の邪魔をするな、と叱られる!


 一瞬そう思ってハヤトは首をすくめた。ところが予想に反して、ワタルは顔をほころばせる。


「難しいところもあるけど、楽しいよ」


「楽しい? 同じ曲を練習するだけなのに?」


「練習するたびに、だんだんうまくなるからね。

 昨日弾けなかったところが今日はできるようになる。明日はもっと難しいところが弾けるようになるかもしれない。

 それってとても楽しいことだよ」


「すらすら弾けてるのに、何度も何度も繰り返しているだけじゃないか。飽きたりしないの?」


「飽きないよ。手がちゃんと動いてまちがわずに弾けても、それで終わりじゃないからね」


「終わりじゃないって、なんか面倒くさそう」


 ハヤトは頭の後ろで手を組んだ。ワタルの言う意味が、ハヤトにはよく理解できない。

 ただ、面倒だという言葉は本音ではなかった。

 ハヤトの耳には上手に弾けているように聞こえる。にもかかわらず、延々と同じ曲の練習を繰り返すワタルが不思議だった。


 音楽にそんなに魅力があるのだろうか。

 ギターに触れることは、そこまで楽しいことなのだろうか。


 会話が終わると、ワタルはまたギターを弾き始める。最初は楽譜を見ながらだったが、いつの間にかそれは閉じられていた。

 丸暗記するくらい練習しているのだと思うと、ハヤトはますます気になる。

 自分もギターに触れてみたら、その意味が理解できるだろうか。


 迷った末にハヤトは、思い切ってワタルに頼んでみる。


「ねえ。ぼくにも……弾けるかな?」


「ハヤトに?」


 おまえには無理だといわれるかもしれない。邪魔になるから出て行ってくれ。


 そう拒否されたらそれでもいいや、という諦めも半分あった。それならそれで仕方がない。今までハヤトはワタルを避け続けたのだから。

 ところが予想に反し、ワタルは頬を少し染め、口元に笑みを浮かべた。


「はじめは難しいよ。でも頑張って練習を続けたら絶対に弾けるようになるからね」


「本当?」


「試しに弾いてみる?」


 と、ワタルはギターを差し出す。ハヤトはやや震える手で受け取った。


 ギターは見た目より大きくて、腕にずっしりと来た。

 ハヤトはワタルの横に並び、ベッドをいす代わりにして座る。ワタルに教わりながら、ボディを膝におき左手でネックをつかむ。

 小柄な小学生のハヤトは、ギターの大きさに戸惑いを覚えた。


「これがピック。右手でこうやって持つんだ」


 ワタルに教えてもらい、ワクワクしながら一本ずつ弦をはじく。


「あれ、変な音……」


 ワタルと違い、プツプツと音が途切れ、きれいに響かない。


「左手の指を弦から放して、もう一度弾いてみて」


 言われたとおりにして、一本だけ恐る恐るはじいてみた。すると今度は音が響き、余韻が残る。


「あっ、できた!」


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