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第三話 狙われたアイドル(十五)

「ワタルさんのことが……好きです。だ、大好きなんです!」


 梢はうつむいたまま耳まで真っ赤に染め、しぼり出すような声で告白した。


 理性で抑えていた感情が、言葉とともにとめどなく溢れだす。

 できることなら受け止めてやりたかった。それで梢が安心し、窮地きゅうちを乗り越えられるなら。


 だがそれはできない。

 ワタルの心は、沙樹のもとにある。


 苦難に立ち向かい破れたとき、傷ついたとき、そして力尽きたとき——ワタルを癒すのは、沙樹の飾らない態度と安らぎを与えるような笑顔だった。


 わがままは許されないリーダーという立場の自分が、たったひとりだけ本音を言える存在。

 健気さと、か弱さ、そして包容力を持つ大切な人。


 そんな沙樹を捨てることなど、ワタルにはできない。

 梢の力になることはできても、気持ちは受け止められない。


 ——優しさは強さであり、刃にもなる。


 ——誰かを守るために抜いたはずの刀が、守るべき人を傷つけ、大切な人の心を切り裂く。


 解っていたのに、梢を優しさで包んでしまった。わがままを聞くだけで、強い態度を取れなかった。


 そして傷つけた——。


「……梢ちゃん。キミの気持ちは、とても嬉しいけど……おれは……」


 言葉を選びつつ答えを返すワタルを見て、梢は恋の結末を悟ったのだろう。


「ごめんなさい、あたし……」


 はかなげな笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。


「謝ることないよ。気持ちに……その、応えられなくて、すまないと思っている……」


 ワタルにとって、それが精一杯の言葉だった。


「あたしこそ自分勝手に気持ちをぶつけて、ごめんなさい。ああ、やっぱり予想通りのエンディングか。

 あたしのこと好きだって言ってくれる人は日本中にたっくさんいるのに、一番ふりむいてほしい人にフラれるなんて。

 世の中ってきびしいな」


 無理して平然を装おうとしている梢が痛ましい。

 ここで泣かれでもしたらどうすればいいんだ、と焦ったのも束の間だ。


「森下さんじゃないのは解ったけど、ワタルさんは彼女がいるの? それとも片思い?

 知りたいな。ワタルさんの好きな人のこと。ねえ、教えてくれてもいいでしょ」


 梢は急に妹の顔を取り戻し、いつもの調子でズバズバと問いかけてくる。


「え? そ、そんなこと聞かれても……」


 自分の恋愛については何も語りたくない。なんとかごまかして話題を変えようとしたが、


「あれ、ワタルさん恥ずかしがってる? やだ、真っ赤になっちゃって。カワイイんだ」


「こらっ。大人をからかうんじゃないぞ」


 ころころと笑う梢に押し切られて、ワタルは黙り通すのは無理だと悟った。

 どこから切り出せばよいのか。何を話してものろけ話になりそうで、自分の恋愛話をするは苦手だ。


「ねえ、どんな人? 芸能人?」


「一般の人だよ。学生時代からの友達で、アマチュア時代からバンドのサポートをずっと続けてくれたんだ。バンドやメンバーのことをいつも気にかけてくれる。

 芯がしっかりしてて、今でもオーバー・ザ・レインボウは助けてられているよ」


 男だけでは気のつかないところを、女性の視点で見つけてくれる。アマチュア時代のオーバー・ザ・レインボウにとって必要な人だった。



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