第三話 狙われたアイドル(四)
数々の妨害の中にいてなお、梢は立派に仕事をこなしていた。画面に映る笑顔から、嫌がらせの影は感じられない。
気の強い少女は、意地でも弱気な姿を見せたくないはずだ。泣き顔や不安げな顔は敵が喜ぶだけだと解っているから、梢は気丈に仕事をこなしていた。
ワタルはそんな梢を不憫に思い、できるだけ手助けをすることにした。
深夜の電話も嫌な顔をせずに出る。梢の気持ちをじっくりと聞き、辛い思いを吐き出させるしかできない。
たったそれだけのことで梢のささくれ立った気持ちが落ち着き、電話を切るときの「おやすみなさい」にいつもの明るさと元気が戻っていた。
歌番組などで一緒になったときは、梢にせがまれて家まで送り届けるときもあった。
車中では嫌がらせの内容を教えてもらい、森下も含む三人で、避ける方法を考えた。
自己防衛が功を奏したのか、偽のスケジュールに騙されることもなくなった。楽屋に貼られたポスターのような嫌がらせも、番組のスタッフが警備員に監視をさせることで、徐々に消える。
障害がなくなったおかげで梢は仕事に全力投球できるようになり、評判はすぐに回復した。
やがて妨害や嫌がらせはなくなった。何をしても梢の足を引っ張れないと気づいて、犯人は行動をやめたに違いない。
不安から解放され足枷のなくなった梢は、以前にもまして輝いた。仕事も順調にこなし、テレビで梢の姿を見ない日はないくらいの人気ぶりだ。
秋も深まった日、オーバー・ザ・レインボウのラジオ番組に梢がゲスト出演をした。
ワタルが沙樹と顔を合わせるのも久しぶりだ。ツアーも終わり、梢の件も落ち着いた今、ワタルにも時間に余裕ができた。
バンドメンバーだけなら沙樹とプライベートな会話をして、デートの約束をとりつけたいところだ。だがDJブースに梢がいる状態では無理だ。番組の進行について最終打ち合わせを終えると、すぐに収録が始まった。
今日のDJはワタルと武彦だ。整った顔立ちで口数の少ない武彦は、一般にはクールだと思われている。
だがその実態は、口下手で、意外なことに天然キャラだ。
話の内容をうまく調整し、武彦が少しずれた反応をしてくれれば、とても楽しいトークとなる。
気心の知れた相手だからなんとかなるものの、毎回うまくいくとは限らない。万が一トークが弾まなかったときは梢に頼るつもりだ。
いつものように武彦の個性を十分引き出し、梢も楽しそうに会話に加わる。一抹の不安は取り越し苦労に終わった。
収録後武彦と別れ、ワタルは駐車場に向かった。肩の荷もおり心配事もなくなった今、やっと沙樹と水入らずで過ごせる。車に乗りスマートフォンを取り出す。メッセージを送ろうとしてまた言葉が出なくなった。
代わりに電話をかけることも考えたが、沙樹がまだ局内にいることを考えるとそれも憚られる。
いい加減、筆不精と電話不精を克服しなくては、とため息をついたときだ。
不意に運転席の窓ガラスが軽くノックされた。
今夜は梢につきあうつもりはない。嫌がらせもなくなり身辺が落ち着いているのだから、自分の予定を優先させてもいいはずだ。
ワタルはそう考えながら顔を上げた。
「あなたは……」
そこにいたのは梢のマネージャーだった。森下はワタルと目が合うと会釈をした。
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