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第二話 甘え上手とお節介(八)

 先日の音楽番組で一緒になったあと、ワタルたちのバンドがDJを務めるラジオ番組『虹の彼方に』にも来てもらったことがある。また来ます、と話して別れたがそれに関することだろうか。

 仕事の件なら、森下というマネージャーがいるのだから、直接話を持ってくるとも思えない。ワタルは心当たりのないまま電話に出た。


『ワタルさん、今日の終業式ですごいことが起きたの。なんだと思う?』


 やや興奮ぎみの弾んだ声が耳に届く。


「そのようすだと、よほど嬉しいことみたいだね」


『そうなの。このあたしが勉強で成果を出したっていうので、学校の賞を貰ったの。子役のお仕事ばかりであまり勉強できなかったから、マジびっくり』


「それは素晴らしいな。おめでとう」


『最近自分でも驚くくらい数学が解るようになったの。今まで半分より前の成績を取ったことがなかったのに、なんと十位以内に入ったんだ。それだけじゃなくてね。他の教科もかなりアップして、担任の先生に『これなら大学もいいところが狙えるよ』って言われちゃったわ』


「梢ちゃんの努力が認められたんだね」


『ワタルさんのおかげよ。勉強をみてくれたでしょ』


 家庭教師は一月ひとつきで辞めたが、それでもときどき解らない問題を教えてくれと頼まれることがあった。空いた時間にインターネットを利用してビデオ授業をしたこともある。

 梢は芸能活動が忙しかったしわ寄せで、学校の勉強に充てる時間があまり取れず、お世辞にもいい成績とはいえなかった。だが演技力を見てもわかるように、頭が良く勘の鋭い子だ。


 つまずいたまま放置している部分を丁寧に教えれば、短時間で伸びるに違いない。それは家庭教師や塾のバイトを経験したことのあるワタルの直感だった。

 予想通り梢の学力は伸びる。だがその影響で、沙樹と会う時間が減ったのも事実だ。


 いつだったか、夜中に泣きながらツアー先まで電話をしてきたことがあった。仲良くしてくれるクラスメートが、陰で悪口を言うのを聞いたという。忙しいからと拒否するのは簡単だ。でもここで突き放せば、梢のつらい気持ちに共感してくれる人はいなくなる。


 大学入学後、家を出たワタルに、詩織は何度も相談の電話をしてきた。血のつながりがない分、身内に相談するという気恥ずかしさがなかったのだろう。

 梢と詩織が重なる。沙樹より詩織を優先したことはなかったが、それで悲しい思いをさせたのは事実だ。


『ワタルさん、今部屋にいるんでしょ。行ってもいい?』


「今から?」


 帰宅した直後なのに、どうしてそれを知っているのか。


『細井さんが教えてくれたの。ワタルさんが今、部屋に帰ってるって』


「細井くんが? 嘘だろ……」


 事務所の人間がタレントの個人情報を流すとはもってのほかだ。二度とこんなことはしないよう釘を刺しておかねばならない。


『今日の午後には帰るって聞いてたから、学校が終わってから駅前のファストフードで時間つぶしてたのよ。十分ほどでつくから待ってて』


 梢はワタルの返事も聞かず、電話を切った。


「なんだって? ここに来る?」


 幸いにして部屋の中は片づいている。


「いや、そんなことはどうでもいい。女子高生が、それもトップアイドルが来るなんて……。前にも『一人暮らしの男の部屋にはくるな』って注意したのに、忘れたのか?」


 ワタルは部屋の中をざっと見まわした。沙樹とつきあっている証拠になるようなものはどこにもおいていない。バンドメンバーも遊びにくるから、そのあたりは抜かりなかった。


「やっぱり外で会った方が無難だよな。でもファンに見つかる可能性を考えたら、部屋がいいのか……」


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