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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第三章

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第二話 甘え上手とお節介(六)

 オーバー・ザ・レインボウのラジオ番組に沙樹も関わっているので、挨拶を交わすのは自然なことだ。偶然隣り合わせたふりをして、ワタルは沙樹に声をかけようと決めた。

 ところがちょうどそのタイミングだ。


「あっ、ワタルさーん、おはようございまーす」


 沙樹まであと数メートルというところで、ワタルは呼び止められた。ふりかえると梢が駆け寄ってくる。


「オーバー・ザ・レインボウも『ミュージック・ストリート』に出るんですか?」


 沙樹との会話を邪魔されて、ワタルはまたこのパターンかと、心の中で肩を落とす。だがそんなそぶりは一切見せず、いつもと同じ笑顔を作る。起伏する感情をそのまま相手にぶつけるのは、子供じみた行動だ。

 ワタルはリーダーとして冷静に動くことを心がけているうちに、あからさまな感情表現を避けるようになった。


「うふふ、実はあたしも出るんですよ。生番組に慣れなくて不安だったけど、ワタルさんを見たら安心しちゃった」


「おれも本番前は緊張するよ。コンサートと違って、全国ネットだからね。目の前に観客はいなくても、カメラを通して何百万人という人が見ているかと思うと、いまだに身震いすることがあるんだ」


「意外ぃ。ワタルさんでもそんなことがあるんだ。いつも落ち着いて見えるのに。あたしみたいな歌手になりたてが緊張するのも無理ないのね」


「ワタル、おれたち先に行くぜ」


 梢と立ち話をしていると、哲哉がしびれを切らした。


「あ、ああ……」


 四人の仲間とマネージャーは、ワタルをおいてエレベーターの前に立った。哲哉たちと沙樹は互いに気がついたようで、何やら話している。

 途中で沙樹はこちらをふりかえったが、ワタルと目が合うことはなかった。

 エレベーターの到着を知らせるチャイムが鳴り、沙樹はワタルに気づかないまま、哲哉たちと一緒に乗った。


 簡単な挨拶以上の会話はできなかったかもしれないが、直接話せるチャンスだった。それを梢に邪魔された。悪気がないのは解っているので、文句を言う筋合いはない。

 やるせない気持ちで、ワタルは梢と並んでエレベーターの到着を待つ。


「ねえワタルさん、番組のあと、次の仕事ってあります?」


「今日はこれで終わりだよ」


「じゃあ一緒にお食事しましょ。家庭教師のお礼をさせて」


「月謝をもらっているんだから、そんな気遣いはいらない。だから今日は……」


 断るつもりでそう言ったが、


「素敵なお店を見つけたの。個室があるから人の目を気にしなくていいのよ」


 梢は店のサイトをスマートフォンに表示させ、邪気のない笑みを浮かべてワタルに見せた。逃げる口実はないかと考えているうちに、梢は予約確定をタップした。


「梢、またそんな無理を言って北島さんを困らせるんじゃないの」


 マネージャーの森下が助け舟を出す。一足遅れでやってきたのは、駐車場に車をまわしていたからだろう。


「ワタルさんはOKしてくれたもん。それにもう予約しちゃった」


 梢はワタルの左側に立つと、いきなり腕を組んできた。そして目をパチパチさせて「そうですよね」と相槌あいづちを求めた。


 行くと返事をした覚えはないんだが、とワタルは心の中でため息をつく。

 今日もまた沙樹との時間を奪われた。思うまま強引にことを進める梢に対し、妹という存在に自分がこんなにも弱かったのかと驚く。

 デビューしたころ詩織をないがしろにし、随分悲しませたことがある。梢に甘いのは、詩織への負い目が原因なのは否めない。同じミスを繰り返したくはなかった。


 でも次はキッパリと断るぞと決意をしつつ、ワタルは梢たちとエレベーターに乗り、スタジオに移動する。

 オンエア中もテレビに映っていない隙をみて、梢はワタルに積極的に話しかけてくる。CMに入った直後、司会者に、


「梢ちゃん、ワタルさんにべったりだね」


 と微笑みとともに指摘された。すると梢は嬉しそうに頬を染め、


「だってあたし、オーバー・ザ・レインボウがデビューしたときからワタルさんの大ファンだったの。こうしておしゃべりできるようになって嬉しいんですよ」


 と照れながらも堂々と答えた。


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