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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第二章

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第五話 かすかな予感(四)

「沙樹さん、道に迷ったかなんかで、困ったんじゃないですか? そこに偶然ハヤトが通りかかったって感じ? ハヤトってお節介だから、それを見て声をかけてきたんでしょう?

 でもここだけの話、ハヤトがお節介を焼くのは女性限定なんですよ。俺たちには冷たいのなんのって」


「こらショウ。沙樹さんに何を吹き込んでるんだよっ。お節介なのは認める。でも女子限定じゃないぞ。

 老若男女、困ってる人を放っておける人の方がおかしいんだよ。人は助け合って生きるもんだろ」


「なんだよ。急に主語を大きくしちまって。でもそのわりにいつまでも彼女ができない、悲しいキャラなんだよな」


「悪かったな。どうせぼくはいつもフラれてばかりだよ。そして毎夜枕を濡らしてるんだ」


 しくしくと泣きまねをするハヤトに、ショウがさらなる攻撃をしかける。


「身長が災いしてるんだよ」


「いいんだっ! 身長なんて気にしないって言ってくれる女子を探すっ。最近じゃカワイイは正義なんだよ」


「でも結局はカッコいい男子に彼女ができるんだぜ」


 そう言うとショウは前髪をサラッと掻き上げた。

 確かにルックスはバンド内で一番だ。多少のヤンチャさもあるようなので、バンドの中で一番の人気者になれそうだ。


「今日のハヤトはいつもよりテンションが高いな。大丈夫か?」


 ふたりが掛け合い漫才のような会話をしているのを見て、マサルが腕を組み、眉間にしわを寄せてつぶやいた。


「沙樹さんがいるからな。音楽業界の人にいいとこ見せたくてガチガチなのさ」


 ヒデは軽く聞き流し、手元の楽譜をめくっている。それを見たマサルが、急に手をパチンと叩いた。


「解った。今日はオーバー・ザ・レインボウのコピーをするからだよ。ハヤトには特別な思い入れがあるからな」


「ああ、確かに。よし、今夜のライブはいつも以上に気合を入れようぜ。ハヤトのために」


 ヒデは楽譜を閉じて親指を立てた。

 

 特別な思い入れとは何を指すのか?

 ハヤトとの間でオーバー・ザ・レインボウが話題に出たことはあったが、そんなものは少しも感じられなかった。

 好きだとは話していたが、それ以上に何があるのだろう。


「ねえ、思い入れってどういう意味ですか?」


 マサルは、あっと言っててのひらで口元をふさぎ、ごまかすように視線をそららした。


「マサル。おしゃべりしてないで、そろそろ準備に取りかかってくれよ」


「すまない。今行く」


 ハヤトの突然の指示で、マサルは沙樹との会話を中断し、そそくさと店内に移動した。おかげで沙樹は答えを聞き出せなかった。

 偶然とはいえ邪魔されたのが恨めしかった。


 そのとき沙樹は唐突に、ワタルのサインがこのライブハウスにあるような予感がした。

 浅倉梢が交際宣言をしたあとだ。見つけたところで今さらワタルに会いに行くつもりはない。それでも確認したい衝動を抑えられなかった。


「ハヤトくん。あたしも手伝うことない?」


「サンキュー。じゃあ、あれを持ってって」


 ハヤトはテーブルの上に置かれている人数分の楽譜を指さす。沙樹はそれを持ち、店内に入った。

 


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