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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第二章

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第五話 かすかな予感(一)

第五話「かすかな予感」


ハヤトたちのバンドがライブを行う日になりました。控え室でバンドメンバーを紹介されます。

沙樹は準備を手伝いながら、ワタルのサインを探しますが……。


**********


更新がしばらく途絶えてしまい、すみませんでした。

体調を整えつつ、なるべく毎日投稿できるように頑張ります。

とりあえず20日分は予約しましたので、引き続きよろしくお願いします。

 食堂におかれたテレビから、今週の芸能ニュースが流れてくる。

 沙樹は朝食を取りながら、レポーターの解説をぼんやりと聞いていた。


 ゴールデン・ウィーク前後からワタルと浅倉梢のツーショットが何度も目撃されていること。両方の事務所からは「いいお友達です」とコメントが出ていること。


 だが梢は自分のブログでワタルへの気持ちを認め、現在はいいおつきあいをしている、と公にした。

 この温度差は、事務所の反対を押し切ってでもいい関係を続けたい、というふたりの意思の表れではないかと推測されていた。


 昨夜のことが夢ならば、どんなによかったか。でもときに現実は残酷な結果を呼び寄せる。


 だから沙樹は、昨夜は一睡もできないのではないかと恐れていた。しかし幸運なことに、布団に潜り込んだとたん眠りに落ちた。

 心がいくら悲鳴を上げていても、疲れた体は休養を望んでいる。入浴中にも考えたが、自分は意外とタフなのかもしれない。


「沙樹さーん、おはようございまーすっ」


 明るいテノールの声が食堂に響く。遅くまで起きていたのにハヤトは変わらず元気だ。

 沙樹は、不意に昨夜のことを思い出した。雨の中で自分の晒した醜態しゅうたいを考えると、まともに顔をあわせられない。

 対するハヤトは何事もなかったように、いつもと同じ調子で沙樹の正面に座った。


「気分はどう? 風邪ひいてない?」


「あ……うん、おかげさまで」


「よかった。旅先で寝込んだら面倒だもんね」


 ハヤトは頬杖をついて真顔で沙樹の顔を見つめた。


「え、なんなの?」


「いや、残念だけど睡眠不足みたい。目の下にクマさんがいる」


「えっ、そんなはずは」


 今朝メイクをするときに鏡を見たが、くまなどできていなかった。それとも自分で気づかなかっただけか。

 洗面所に駆け込んで確認しようと沙樹が立ち上がりかけたときだ。


「うっそだよー」


 ハヤトはクスッと笑い、舌を出した。からかわれたことに気づくまで、沙樹には数秒の時間が必要だった。


「ひどいなあ、お姉さんをネタにして遊ぶなんて」


「そうだね、お年寄りは敬わなきゃ」


「お年寄りって……まだ二十代半ばなのに」


 沙樹はハンカチを目頭に当てて泣くふりをした。やられてばかりなのは悔しい。ハヤトの顔が急に青ざめ、両手を広げて胸元で左右にふる。


「ごめんなさいっ。沙樹さんはお年寄りじゃありません。ほっぺたはすべすべしてて、赤ちゃんみたいに弾力があった……から……」


 雨の中、濡れた顔をハヤトに拭いてもらったときの感覚がよみがえり、沙樹の頬が熱くなった。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない。昨夜はありがとうね」


「いいよ、気にしないで」


 不意にハヤトの口元の笑みが消え、沙樹を真顔で見据える。

 沙樹は自分の気持ちが解らなかった。去っていった人と、そばで優しくしてくれる人。勘違いしてはいけないと言い聞かせても、心にブレーキがかからない。

 ハヤトが誰に対しても分けへだてなく親切なのは、ライブハウスで友人と会ったときに見たというのに。


「そうだ。ゆうべ沙樹さんが電話で話してた人から伝言があったよ。『あいつのことは気にせず戻ってこい』って。バタバタしてすっかり忘れてたよ。ごめんなさい」


「ううん、いいのよ」


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