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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第二章

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第三話 ライブハウス(四)

 翌日以降も、沙樹はハヤトに連れられて、ライブハウスに出かけた。

 ハヤトは顔が広く、どこの店でもオーナーや従業員、バンドメンバーと親しくしている。

 ジャズバンドの仲間たちとの件で、沙樹が疎外感を覚えたことに気がついたのか、その後は積極的に会話に入れる。そんな些細な心遣いがうれしく、そしてなぜだか懐かしい。


 まわったライブハウスには、ワタルのサインはなかった。残っているのは二軒、ピアノの生演奏をしている小さな店と、初日に訪れた一軒だ。

 あのときに見ておけばよかったと沙樹は後悔するがしかたない。はやる気持ちの中でハヤトに聞いてみることを何度も考えたが、迂闊うかつなことをして芸能レポーターにまちがわれる危険を犯したくはなかった。


 本当にこの街で正しかったのだろうか。もちろん哲哉の思い違いで、まったく関係のない土地に来てしまった可能性もある。

 残りのライブハウスで見つけられなかったら、潔くこの地を去ろう。ワタルの手がかりがない以上ここにいる意味はない。


 帰ることを考えたとたん、沙樹の胸にかすかな痛みが走った。これは何を意味するのだろう。会えなかった失望? それとも——。


 確実に迷いが生まれている。

 自分の気持ちが解らない。こんなことは初めてだ。


 

 ワタルと浅倉梢の件は、報道される以上の情報は誰からも届かない。テレビや雑誌の報道は日を追うごとに加熱する。次々と出てくるツーショット写真や関係者という人物からの証言が、熱愛報道がデマでないことを物語っているようだ。


 そんなとき、沙樹は自分の耳を疑う報道をテレビで見た。

 その日いつものように朝食を済ませ、そのまま食堂でいやいやながらワイドショーを見ていた。

 穏やかな気持ちでいられないと解っていても、ワタルの報道を無視し続けられない。浅倉梢の笑顔が勝利宣言に見えそうな気持ちを抑えながら、何事もないそぶりでテレビを見たときだ。


『実は未確認情報ですが、北島さんには最近までおつきあいしていた方がいたようなんです。お相手は一般の方で……』


 沙樹は、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。


「ま、まさかそれ、あた……?」


 思わず声に出しかけて、沙樹は言葉を途中で飲み込んだ。幸いにしてそばには誰もいない。沙樹は目をこすって、もう一度テレビを見た。

 ワタルの相手については、一般人ということもあって詳しいことは何も語られなかった。


 OLというだけでは、それが沙樹のことか判断できない。

 自分の存在がバレたのか。あるいは勝手な憶測の元に作られた人物なのか。ミスXの素性はワイドショーだけでは何も解らない。


 親しいバンドメンバーにさえ気づかれなかったのに、それが芸能レポーターに知られるはずなどない。沙樹はそうやって自分に何度も言い聞かせ、動揺を抑えようと足掻く。

 画面から流れてくる空気は、昨日までのちょっとした祝福ムードから一転して批判するものに変わっていた。


 まるでスキャンダルだ。浅倉梢の売りである清純な高校生という看板を、「略奪愛」という衝撃的な言葉で引きずりおろそうという負の力が見える。

 レポーターたちの憶測も、浅倉梢とワタルの交際は真剣だという人もいれば、単なる友達だとみている人もいる。


 すれ違いの果てに出てきた熱愛報道は、ワタルをよく知るはずの沙樹やバンドメンバーですら真実が見えない。それだけに不安と焦りが日を増すごとに強くなる。

 沙樹は浅倉梢の気持ちが知りたかった。最近は梢のほうがワタルと過ごす時間が長い。


 それはワタルの気持ちが沙樹から梢に変わった結果だとしても、とがめられるものなのか? 自分に落ち度はなかったのかと沙樹はずっと考えてきた。

 ワタルが自分を好きでいると知ったとき、梢はどんな態度を取るだろう。

 梢が決定的な発言をする前に、どうしてもワタルに会いたかった。追い込まれて身動きが取れなくなる前に、自分の意志で次の行動を決めたい。


 見えない力にふりまわされた挙句あげくの決断、それだけはごめんだ。



以上で第二章第三話「ライブハウス」は終わりです。

次回より第二章第四話「冷たい雨」に入ります。

気に入っていただけたら、評価・いいね・感想・レビューをお願いします。


お話はまだ続きますので、ぜひお読みくださいね

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