第三話 ライブハウス(一)
第三話「ライブハウス」
ワタルの手がかりを探すため、沙樹はライブハウスを回ることになりました。
いく先々でハヤトと音楽のつながりに気づきますが、同時に何かよく解らない感情に包まれ……。
夕刻になった。
旅館に戻り、今日出かけるライブハウスを決め、そろそろ行動しようとしたときだ。
ハヤトから沙樹のスマートフォンにライブハウスのリストが届いた。「フロントで待ってるよ」というメッセージが添えられている。
「沙樹さんの探してる規模のライブハウス、全部で六軒あったよ。でもどうしてこんなに小さなところばかりまわるの?」
沙樹がフロントに行くと、すかさず印刷したリストを見せながら、ハヤトが首を傾げた。
洋館で別れたときに見せた妙なわだかまりは一切なく、初対面のときと変わらない自然なふるまいだ。あれは口実ではなく、本当だったのだろうか。沙樹は一瞬でも疑った自分が恥ずかしくなった。
「あたしが知りたいのは、地元を中心に活躍してるミュージシャンなの。そんな人たちをたくさん紹介して、ライブに行くきっかけを作りたいのよ」
これは、沙樹が先日オフィスで倒れたときに書いていた企画だった。
アーティストたちの語る言葉を多くの人に届けたくて、FM局という職場を選んだ。まだ知られていない才能を知ってほしい。沙樹の目指すものは、たくさんの歌をリスナーに伝えるための手助けをすることだ。
「なんだ。やっぱり観光じゃなくて仕事目的じゃないか」
「こういうものはオンオフ関係ないの。常にアンテナを張っておかないとね」
沙樹はライブハウスの場所を地図で確かめながら答えた。ここから一番近い店には徒歩で行けそうだ。
「あ、そこのオーナーなら知ってるよ。連絡しておくね」
ハヤトはすぐに電話をかけた。親しげに話しているところを見ると、顔が利くのは嘘ではないらしい。
「開店前だけど、興味あるなら今すぐおいでってさ」
ありがたい返事がもらえ、沙樹の気持ちは一気にワタルに戻る。ハヤトに案内されて、沙樹はそのライブハウスに出かけた。
明るい雰囲気の店内には四十脚ほどのテーブルが並べられ、正面には小さなステージがあった。今夜の出演バンドはすでに準備を終え、最後の調整をしている。ハヤトに気づくと、ギタリストがステージから降りてきた。
ふたりがあいさつを交わしている横で、沙樹はさりげなく店内を見まわした。カウンターのそばにたくさんのサイン色紙が貼られている。
ワタルが演奏したという証があるだろうか。
沙樹は唇を噛み、一枚ずつ丁寧に確認した。ほとんどが知らないアーティストのものだが、中にメジャーデビューした人のものもある。
だがワタルのサインはなかった。
落胆しているのをハヤトに気づかれる前に、沙樹は気持ちを仕事モードに切り替える。テーブルにつきデータをタブレットに入力していると、話を終えたハヤトがやってきた。
「中田さんたちね、いつもは洋楽のコピーをやってるんだ。そして半年に一回くらい大きなライブハウスで、オリジナル曲を演奏するんだ。ローカルのFM局でもときどき紹介されるくらいにこの辺では有名だよ」
沙樹はハヤトの話を元に、彼らのデータを入力する。見た目がスタイリッシュなのに加え、洋楽をメインにしているというので、大人向けの音楽が期待できそうだ。
やがて開店時刻になり、次々と客が訪れる。店内は八分ほどの入りとなった。生演奏は一晩で二回行われる。演奏目当ての客よりも食事やお酒を目的に来る客が多そうだ。そんな人たちをどうやって惹きつけるのか、あるいはBGMに徹するのか。それも興味のあるところだ。
ほどなくして1回目の演奏が始まった。
ポップなスタンダードを自分たちのカラーに染め、耳になじみやすい演奏をしてくれる。どのパートも主張しすぎず、バランスもいい。これがオリジナルになると、どう変わるのか興味深い。
すべての演奏が終わり、店内が拍手に包まれているときだ。
「ここで今夜の特別ゲストを紹介します。軽音サークル時代の後輩、南野ハヤトっ」




