第三話 差し込んできた光(八)
沙樹がワタルを捜す理由——それは他でもない、ただただ会いたいからだ。
その先に別れがあるなら、素直に受け入れて身を引こう。
何があってもいい。一日も早くはっきりさせたい。
この想いは自己満足に過ぎないのか。
沙樹は自分の心に問いかける。
何が正しくて何が間違っているのかは解らない。ワタルがどんな思いで姿を消したのかも。
だが人の気持ちを優先させてばかりでは、一歩も踏み出せない。行き着くところは昨日までの迷い道と同じで、せっかく見えた光を見失うことになる。
同じことの繰り返しは嫌だ。待つだけの日々は過ごしたくない。
沙樹の決意は揺るがない。
「それでもあたし、ワタルさんに会いに行く。ひとりで抱え込んで済ませるつもりかもしれない。でもそのせいで周りに迷惑かけてるのよ。そんなことも解らない人が、リーダーっていえる?」
「……ああ……なるほど、そういう考え方もあったか」
そうつぶやくと、哲哉は沙樹の真剣な顔を見、軽く握った手を口元に当てて破顔した。
「何? あたし、変なこと言った?」
「いや、西田さんって本当にお母さんだな。自分勝手でわがままばかり言ってる子供を叱りに行くみたいだ」
「わがまま言ってる子ってワタルさんのこと?」
「そうだよ」
「あのねー」
同級生に何度も母親呼ばわりされるのも、嬉しいものではない。沙樹は複雑な気持ちを抱いたままワイングラスを手にした。
「ごめん、怒った?」
口では謝りながらも哲哉はまだクスクス笑いをやめない。沙樹がすねたふりをして口を尖らせても効果がなかった。
「いいなあワタルは。ここまで西田さんに思われて。本当に好きなんだっていうのが伝わってきて、こっちが照れちまうよ」
「褒めてる? それともからかってる?」
哲哉は窓の外に視線を向けた。沙樹もつられて外を見る。
すっかり日が暮れて、あたりは夜の帳に包まれていた。
「西田さんみたいに真剣に思ってくれる人が、おれにはいない。なのにワタルにはお袋さんが三人もいるようなものか。
まったくうらやましい話だよ」
哲哉はそう言うとピザを一口かじった。
サラッと流した哲哉の言葉がひっかかる。沙樹は頭の中で繰り返した。
——お袋さんが……三人もいるようなもの?
「得能くん、今、三人のお母さんって言わなかった?」
「そういえば言ったかな。ひとりは西田さんだろ、ひとりは……」
哲哉は自分の何気ない言葉に気づき、手をあごに当てて考え始めた。
やがて何か閃いたように目を輝かせる。
「そうか、そうだった。でも、なんで今まで気がつかなかったんだ?」
「得能くん、ねえ、どうしたの?」
「解ったよ、西田さん。やっとワタルの居場所が解ったんだ」
「本当? どこなの?」
「まちがいない。今度こそワタルに会えるよ。
でもおれって莫迦だな。どうしてこんな重要なことを見落としてたんだ。自分でも情けないぜ」
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