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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第一章

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第三話 差し込んできた光(八)

 沙樹がワタルを捜す理由——それは他でもない、ただただ会いたいからだ。

 その先に別れがあるなら、素直に受け入れて身を引こう。

 何があってもいい。一日も早くはっきりさせたい。


 この想いは自己満足に過ぎないのか。


 沙樹は自分の心に問いかける。

 何が正しくて何が間違っているのかは解らない。ワタルがどんな思いで姿を消したのかも。

 だが人の気持ちを優先させてばかりでは、一歩も踏み出せない。行き着くところは昨日までの迷い道と同じで、せっかく見えた光を見失うことになる。

 同じことの繰り返しは嫌だ。待つだけの日々は過ごしたくない。


 沙樹の決意は揺るがない。


「それでもあたし、ワタルさんに会いに行く。ひとりで抱え込んで済ませるつもりかもしれない。でもそのせいで周りに迷惑かけてるのよ。そんなことも解らない人が、リーダーっていえる?」


「……ああ……なるほど、そういう考え方もあったか」


 そうつぶやくと、哲哉は沙樹の真剣な顔を見、軽く握った手を口元に当てて破顔した。


「何? あたし、変なこと言った?」


「いや、西田さんって本当にお母さんだな。自分勝手でわがままばかり言ってる子供を叱りに行くみたいだ」


「わがまま言ってる子ってワタルさんのこと?」


「そうだよ」


「あのねー」


 同級生に何度も母親呼ばわりされるのも、嬉しいものではない。沙樹は複雑な気持ちを抱いたままワイングラスを手にした。


「ごめん、怒った?」


 口では謝りながらも哲哉はまだクスクス笑いをやめない。沙樹がすねたふりをして口を尖らせても効果がなかった。


「いいなあワタルは。ここまで西田さんに思われて。本当に好きなんだっていうのが伝わってきて、こっちが照れちまうよ」


めてる? それともからかってる?」


 哲哉は窓の外に視線を向けた。沙樹もつられて外を見る。

 すっかり日が暮れて、あたりは夜のとばりに包まれていた。


「西田さんみたいに真剣に思ってくれる人が、おれにはいない。なのにワタルにはお袋さんが三人もいるようなものか。

 まったくうらやましい話だよ」


 哲哉はそう言うとピザを一口かじった。


 サラッと流した哲哉の言葉がひっかかる。沙樹は頭の中で繰り返した。


 ——お袋さんが……三人もいるようなもの?


「得能くん、今、三人のお母さんって言わなかった?」


「そういえば言ったかな。ひとりは西田さんだろ、ひとりは……」


 哲哉は自分の何気ない言葉に気づき、手をあごに当てて考え始めた。

 やがて何かひらめいたように目を輝かせる。


「そうか、そうだった。でも、なんで今まで気がつかなかったんだ?」


「得能くん、ねえ、どうしたの?」


「解ったよ、西田さん。やっとワタルの居場所が解ったんだ」


「本当? どこなの?」


「まちがいない。今度こそワタルに会えるよ。

 でもおれって莫迦ばかだな。どうしてこんな重要なことを見落としてたんだ。自分でも情けないぜ」


   ☆   ☆   ☆


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