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第三話 差し込んできた光(七)

 昨日までの沙樹は、だれにも胸のうちを話せなくて、迷路に囚われていた。

 しかし哲哉が道を示してくれたおかげで、明かりの射す場所を見つけられた。


「得能くんに打ち明けて正解だった。もっと早く話しておけばよかったね」


「悩みなんてものは胸に秘めているほど、ろくなことにならないものさ。悪い方悪い方へと考えが進むからな」


「おかげで胸のモヤモヤが減って、少し元気が出てきたみたい」


「それでこそ西田さんだぜ」


 だが肝心のワタルが口を開かないことには、根本的な解決にならない。


「ワタルさんの行きそうなところ、本当にもう調べ尽くした?」


 沙樹はカットしたピザを取り分け、皿を哲哉に渡しながら問いかけた。


「心当たりはすべてね」


「でも見つからなかったんでしょ」


「残念だけど、おれもワタルを理解しきれてなかったってことさ」


「そんなことない。まだ何か見落としてることがあるはずよ。ワタルさんはどこか一か所にいると思うの。

 昔行って感動した場所とか、子供のときの思い出の場所とか」


「思い出の場所か……」


 哲哉は腕組みしてしばらく考えていたが、やがて息を吐くと首を横にふった。


「西田さんの焦る気持ちは解るぜ。でもワタルのことだ。約束通りそのうち帰ってくるって」


「そうかもしれない。だけどあたし、じっとしていられないの」


「つまり、ワタルの居場所が解ったら、会いに行くってことか」


 哲哉は真顔になり、沙樹を見返した。

「行くよ」と答えると哲哉は口を真一文字に結び、沙樹を見据える。


「どうしたのよ、そんな厳しい顔して……」


「なあ、西田さん。気持ちは解るけど、ここはワタルが戻るまで待つべきじゃないか?」


 予想外の返答に、沙樹は目を見開いた。


「だれにも知らせてない理由を考えたことあるか? マスコミを避けるのだけが目的なら、大袈裟おおげさすぎやしないか」


 たしかにここまで徹底して接触を断つなど、尋常なことではない。

 そうせざるを得なかった理由まで、沙樹は考えていなかった。


「おれだって居場所が解ればすぐに連れ戻しに行きたい。でもワタルの不自然な行動を考えたら、本当にそれでいいんだろうかって考えたんだ」


 哲哉は視線を手元に落とした。


「あいつの性格を考えたら、こんなことを思いつきだけで行動するわけがない。きっとおれたちには言えない特別な理由があるんだよ。

 裏を返せば、会いに行くことで、ワタルの目的を台無しにしかねないぜ」


「でも得能くんたちだって捜してたでしょ」


「実はずっと迷ってんだ。ワタルを捜すことが正しいのかってね。

 そして決めたんだ。もし居場所が解っても、少なくともおれは連れ戻しに行かないし、何も訊かない。連絡さえ取れればいいんだ。

 うちの社長なんて、行動するのさえ我慢して、ワタルから連絡が入るのをひたすら待っているんだぜ」


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