第三話 差し込んできた光(三)
「ゲフッ!」
予想外の展開に、沙樹はコーヒーをのどに詰まらせ、咳き込んだ。
「たしかに電話じゃ言いにくいな」
やっと落ち着いた沙樹は、上目遣いで哲哉を見て軽くうなずいた。
「ワタルの居場所を知ってるんだろ。それともバスルームに隠れて、サプライズで出てくるタイミングを狙ってんのか?」
「そうじゃないの」
「あれ、おれの推理、間違ってた?」
「得能くんの考えた通り、あたしたちつきあってる。でもね、ワタルさんはここにいないの」
「え? ワタルはいないのかよ……」
沙樹の言葉に哲哉は肩を落とした。
「がっかりさせてごめんなさい。それよりどうしてつきあっているのが解ったの?」
哲哉は正面にあるステレオを指さした。
「機械音痴の西田さんにしてはいいオーディオセットを持ってるだろ。マニアックだなと思ったら、昔ワタルが使ってたものじゃないか。
横に並んでいるCDはあいつが好きな洋楽ばかりだし」
そしてコーヒーカップを手にする。
「モカはワタルのお気に入り。棚のウィスキーは、これもワタルの好きなバーボン。
その上、作曲しない西田さんの部屋に、どうして五線譜のノートがあるんだ?」
「単なる偶然って思わなかったの?」
「偶然でワタルの好きなものがこんなに集まるか? あいつがここで過ごす時間が長いからだろ」
「でもあたし、もともとワタルさんとは親しいし……」
「まだ悪あがきすんのか? 決定的な証拠をおいてるのにさ」
「決定的な……証拠?」
哲哉は本棚の二段目を指さした。
「あの写真。アマ時代にライブで写したものだろ。メンバー全員ならまだしも、写ってんのはワタルだけじゃないか。
横にはあいつが部屋でギターを弾いてる写真。あんなに堂々と飾ってりゃ、気づくなってほうが無理さ」
「うう……」
「ライブの写真だけならまだしも、部屋で撮った写真なんて、ファンが手に入れたものに見えると思うか?
SNSからDLしたんだってごまかし切れるか解んないぜ。あいつ、基本的にプライベートな自撮りを載せないんだから。完璧を求めるなら写真を飾るなんてやめろよ」
「う、うん。そうだね」
沙樹は本棚の前に立ち、あわてて写真立てを伏せた。
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