第三話 差し込んできた光(一)
第三話「差し込んできた光」
沙樹は自分がワタルと付き合っていることを告げ、ワタルの手がかりを探し始めます。
リビングの中央にあるテーブルの上には、古い手帳とアドレス帳が開いたままでおかれている。
哲哉は先ほどまで弘樹とふたりして、ワタルが行きそうなところをピックアップしていた。だがこれといった場所も思い当たらないままに終わった。
ワタルの居場所は事務所も把握していない。
ツアー終了後の充電期間だったので、仕事面に大きな影響がないのは幸いだった。
だがこの期間を利用して、次のアルバムの方針を決めることになっている。はたしてそれまでに、騒ぎが収束しているだろうか。
会議の準備や対外交渉などは、リーダーのワタルがほとんど行ってきた。それだけに哲哉は途方にくれてしまう。
自分たちがワタルを頼り過ぎていたことに今さらながら気づき、反省を通り越して自己嫌悪さえ感じている。
しばらく姿を消すのはいいが、その間にやっておかなければならない最低限必要な指示をしてもらいたかった。
スマートフォンの電源が切られているので、心当たりの固定電話にかけるという原始的な方法を取る。だが手掛かりひとつ掴めない。
弘樹を見送ったあと、哲哉はひとりでソファーに座りウィスキーを飲んでいた。
正面のテレビでは、海外ドラマが流れている。映し出されたニューヨークに、レコーディングで長期滞在したときの思い出を重ねながら、二杯目のロックを作った。
ワタルと浅倉梢の件が報道されてから今日で五日だ。
ワタルが雲隠れした影響で、熱愛発覚直後はオーバー・ザ・レインボウの身辺も慌ただしくなった。
しかしいくら尋ねられても、知らないことは答えようがない。
そんな返答を見てあきらめたのか、レポーターは少しずつ減っていった。
それでもまだ電話がかなりの数かかってくる。鬱陶しくなった哲哉は、今朝から留守番電話に対応させている。
オフのときはどこで何をしていようと、ワタルの好きにすればいい。
「だからって連絡まで断つことねえだろ」
幼なじみの自分にまで秘密にする意味が、哲哉には解らない。今までの絆はなんだったのか。
「おれってそんなに信用ないのかよ」
テレビドラマでは犯人が捕まり、事件は無事解決した。
ワタルの件はいつ真相解明となるか。
半ばあきらめに似た気持ちでグラスを傾けていると、スマートフォンが鳴った。またレポーターだろうと唇をかんで、哲哉は画面を一瞥する。
そこには「S・ニシダ」と表示されていた。
「え? 西田さんからだって?」
哲哉は慌てて折り返し電話をかける。
『よかった。得能くんにも連絡がつかなくなったのかって焦ったよ』
「面倒くせえから留守電に対応させてんだ。ったくレポーターのヤツら、どうやってプライベートの番号を突きとめたんだか。
それよりこんな夜中にどうしたんだ? ワタルのことかい?」
『いや……そうというか、そうじゃないというか……』
即答するかと思いきや、沙樹は言葉を濁す。
「どんなことでもいいから遠慮するなよ」
『うん、実はね、その……』
「なんだよ、じれったいなあ。いつもの西田さんらしくないぜ」
言いにくいのなら電話してこなくてもいいじゃねえか、と哲哉はまたイライラする。
『その前に約束してくれる? 今から話すことは、絶対にだれにも言わないって。もちろん他のメンバーにも』
沙樹の言いたいのは、ワタルに関することに違いない。哲哉はそう直感した。
「ああ。でもそこまで秘密にしたいなら、直接会って話したほうがよさそうだな。明日……そうだな、夕方に時間取れるかい?」
『あたしはいつでもいいよ』
「じゃあ夕方西田さんちに行くよ。おれのとこは、残念なことに少し騒がしいんだ。外で会ってもいいけど、できるだけ目立つことは避けたいだろ」
『解った。明日待ってるね』




