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プロローグ(一)

バンド小説「オーバー・ザ・レインボウ」シリーズの一作です。

悲哀と切ないシーンがたくさん出てきます。ですが最終的にはいい形に終わりますので、鬱展開だと思わずに最後まで読んでいただけるとありがたいと思っています。


まずはプロローグからお楽しみくださいね。

 その日、芸能界をひとつのニュースがけ抜けぬけた。人気絶頂中のアイドル浅倉あさくらこずえの、初めての熱愛報道だった。相手はオーバー・ザ・レインボウというロックバンドのギタリスト北島きたじまワタルという青年である。


 他社に先駆さきがけて熱愛の詳細を確認しようと、ふたりのもとには芸能レポーターが押しかけた。浅倉梢は笑顔を返すのみで、否定も肯定もしない。一方の北島ワタルは公の場に出てこないだけでなく、報道陣や仕事仲間の前からも姿を消した。


 ファンたちが固唾かたずをのんで見守る中、ひとりの女性が行動を始める。



 消えたギタリストを捜すために。そして報道の裏に隠された真実を見つけるために。



   ☆   ☆   ☆



 飛行機が着陸したのは小さな空港だった。離着陸する機体は少なく、のんびりした空気がかもし出されている。

 搭乗の際にあずけたスーツケースを受け取り、西田にしだ沙樹さきはターミナルを出た。晩秋でも暖かい日差しが降り注いでいる。沙樹は袖を通したばかりのコートを脱いで、スーツケースの持ち手にかけた。


 エアリムジンを探していると年配の女性が「どちらまで?」とたずねてきた。行き先を告げると乗り場まで案内し、観光スポットも二、三教えてくれた。お節介せっかいなくらい親切な人だ。

 些細ささいな心遣いと何気ない優しさで、沙樹は大切な人を思い出した。


 ここに来たのはまちがいではない。この空の下に彼はいる。


 そんな小さな確信が芽生えた。


 半分ほどシートの埋まったエアリムジンに乗り窓際に座ると、バスはほどなく出発した。

 路線には郊外型の店が途切れることなく並んでいる。都会の生活しか知らない沙樹は、地方都市を、一日もあれば充分まわれるものだと侮っていた。


「こんなに大きな街だったなんて。本当になんとかなるのかな」


 自分の無謀さを痛感してついひとりごちたが、今さら引き返せない。

 くじけかけた決意を奮いたたせるべく、沙樹はスマートフォンに写真を表示させた。

 肩まで届く髪を明るく染めた青年がギターを抱え、楽譜を前に椅子に座り、カメラ目線で映っている。飾らない笑顔を浮かべている人物は北島ワタル——失踪中のミュージシャンで、沙樹の恋人だ。


 いや、恋人()()()というべきかもしれない。


 それでもいい。中途半端なままで終わるのは嫌だ。沙樹は、にらみつけるようにワタルの写真を見つめた。

 

 



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