第八十七話 ネクロマンサーの最後
ブツブツと言っている男をどうにかしないとまたあの光景を見てしまう事になる。後ろにいるグールを消滅させてしまえば良いのだろうが、そうなるともっと何をしでかすのか分からない。
「お~い、もう諦めなよ、いいかグールを食べたって暴走するだけだぞ」
「……んっ、貴様は何を言っているんだ、何故ネクロマンサーの禁術を知っている? 貴様もそうなのか」
「違うけどさ、魔族なら力を取り込めるけど、人間には無理んだよ」
男は私とグールを見ながら考え込んでいる。前の時はいきなり食らいついたが、今は多少なりとも考えているのであの行動をしない事を願うしかない。
「私はそんな馬鹿な真似はせん」
(いやいや、あんたはやったんだよ、今のあんたなら大丈夫そうだけどな)
「そうだよな、まさか妻を食べようとはしないよな」
「妻だと……貴様は何でその事を知っているんだ? だがなこれは妻ではない、只の肉体に過ぎないんだ」
「それならそれでいいんだけどさ、それにしても村人を全員殺すなんてやり過ぎじゃないのか」
私の質問の意味を理解していないのか、側にあるベンチに腰を下ろしてただ空を見上げ始めた。
『ご主人様、此方は全くの平和なのですがそちらに行った方がよろしいでしょうか』
『いや、こっちも殆ど終わっているよ、ただもう少しやる事があるからそこで待っていてくれないか』
『承知いたしました』
この男にはもう明るい未来はこの世界では決してある訳が無いが、それでも同じ転生者として少しでもいいから普通の会話がしたい。
「あのさ、俺が生まれたのはこの世界じゃないんだよね、まぁ別の世界の私と本当に同一人物なのかは自分でも分からなくなってきたんだけどね」
私に言葉に反応してゆっくりと目線が空から私に移ってくるが、特に驚いている様子ではなくまるで感情を持たない人形のようだ。
「別の世界だと、私の持っている記憶は前世では無いのかな」
「違うと思うよ、そうなると一度文明が滅びなきゃいけなくなるだろ」
「どういう事だ? 確かに変な生物がいたりするそれだけの違いじゃないかね」
(それだけだと? 良くそれで納得出来るな)
「聞いていいかな、あんたの前世とやらは何処の国だったんだ? 俺は日本って言う国から転生したんだけどな」
「日本だと、どこかで聞いたような…………んっ転生だと、私の妻を弄んだ連中の中にそんな事を言って命乞いした奴がいたな……貴様はその仲間なのか~」
無表情で話していた男はいきなり狂気をはらんだ表情に変化し、まるでバネが入っている人形のように飛び跳ねてきた。
「づぅわぁぁぁぁぁぁぁ」
人間とは思えないその動きに思わず声を出して逃げ出してしまう。
「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」
全力で走って逃げているのにその男は走るというより滑るような動きで私とほぼ同じ速度で付いて来る。
(止めてくれよ、なるでホラーじゃないかよ、リプレイ)
感情を無くした男が空を見上げている。会話をしたいがまた変なスイッチを入れてしまうとあの状態になってしまう恐れがあるので言葉選びだけは気を付けなくてはいけない。
「聞いていいかな、君も前の世界の記憶があるんだよね、その時に誰かに会ったりしなかったかい」
無表情のままに視線を向けてくるが、ゆっくりと口を開いて行く。
「そういえばそんな事があったような気がするな、どうして今までその事を忘れていたんだろうか、貴様もそうなのか?」
ほんの少しだけ表情に知性が混じったような気がする。この先も言葉を間違えなければ会話が出来るかも知れない。
「俺も同じだからさ、それに彼から普通の人間以上の魔力を貰ったんだ、君もそうなんだろ」
「う~ん、どうだっけ……あっただネクロマンサーとしての素質を授けると言っていたような気がするな、まぁその時は話半分で聞き流していたんだけどな」
「君があった管理者は能力を勝手に指定したのか」
「勝手と言うか、私が誰も死なせない力を願ったような気もするな……だがこんな力は求めてないし、これは妻じゃない」
男はいきなり立ち上がると涙を流しながら妻であったグールを何度も殴りつけた。どんな思いで不貞を働いた妻を殺し、綺麗な姿のままグールにしたのかその気持ちは分からないが、今は好きにさせておこうと思う。
「まいったな、気が済んだら教えてよ」
教えてくれるとは思ってはいないが、少し落ち着くまで村の中を調べようと思う。
「ぐぅっごぽっ」
まともな人間の声とは思えない音がしたので慌てて振り返ると、妻であったグールに抱き締められながら口から血を流している男の姿がそこにあった。
「リプ、いや、君が選んだ死に方なんだよな」
その男が息絶えた瞬間に妻であったグールは自らの意思で動き出し始める。まだ隠していたグールも姿を見せ始めたので全て光の矢で消滅させた。
もっと会話をするにはリプレイをすればいいし、彼の秘密を探りたければ家の中を探れば良いのだろうが何故か何も知りたく無くなった。
「そういや君の名前も知らないんだな」
ムックとアーリアの元へ、まだ動いているグールを消滅させながら向かって行く。




