第八十六話 ネクロマンサーとの戦い
そのやつれた男は女性を連れていて、その女性は遠目から見ても凄く美しく綺麗な緑色の髪なのだが…………残念ながら生者ではない。
まだ距離にして20m程離れているのでその男はそれ以上は声を出すことなくゆっくりと私に近づいて来る。
10m……。
静けさの中で体の中の鼓動だけが聞こえてくる。
9m。
「貴方は余計な事をしてくれますね、あそこまで兵隊を増やしたのにどうしてくれるんですか」
「あんたさ……うわぁぁぁぁぁ」
地面が海に変わってしまったのかと錯覚してしまうように波打ち、地中からグールやスケルトンが這い出てきて俺を一気に囲み始めた。
そして、その汚らわしい手で私に掴み掛って来るが、障壁に阻まれ直に触られる事はない。
「ほぉっ、中々やるじゃないか、ただ何時までそれが持つかね」
「あのさ、こんなのは意味が無いんだけどな」
光の矢を放ってそいつらを一掃してから余裕のある笑みを見せて挑発しておく、もしまだ何かあるなら【リプレイ】をする前に見ておきたい。
「ふんっだったらこれはどうなんだい」
再び地面がうねると、獣の咆哮が聞こえてきた。ゴリラのような腕が地中から出てきたと思ったらその次に出てきた頭部は牛の姿をしていて身体は大蛇の様に太くて長い。
全ての身体が出てくる前に光の矢を放つがそのキメイラのグールは蠅でも払うかのように矢を払いのけてしまった。
「厄介な奴だな……リプレイ」
◇
奴との距離はまだ15mはあるだろう。その静けさの中で左手を天に掲げ【混沌の弓】を構える。
弦を引き絞りながら矢を天に向けて数分にかけて連射すると何本もの光の道が天に向かって伸びていく。
「君は何がやりたいのかな」
何も答えずただ視線を合わせると、方向を変えた光の矢が分裂しながら私の側を中心に一気に降り注いだ。
「ズダダダダダダダダダダダダダダダダ」
激し音と共に光の矢が地中に消えていくと、数多くの光の泡が地中から湧いては消えていく。
わざと小馬鹿にするように両手の掌を上に向け首を傾ける。こんな仕草は普通なら恥ずかしいがやられた方は頭に血が上るだろう。
「わざと物陰から襲わせたのに、どうしてそれだけじゃ無いと分かったんだ」
「これぐらいはお見通しなんだよ、ほらっまだいるんだろ出してみろよ」
近い場所に潜んでいたグールは全滅していたが、そこから逃れていたグールが這い出てくる。ただし距離もあるし数が少ないのでいとも簡単に狙い撃ちしていった。
(ったく、出し惜しみするなよな)
「貴様~必ず殺してやるからな」
その声と同時に先程の場所と多少ずれた地下からあのグールが再び咆哮を上げながら這い出てきた。
(う~んよく見るとアンバランスなんだよな、見た目は気持ち悪いけど牛の頭部なんて角が無きゃ意味無いだろ)
「なぁそいつの足元を警戒させた方がいいんじゃないか」
そのグールに知恵があるなら直ぐに下を見るかと思ったが、下を確認したのはネクロマンサーだけだった。
やはりこいつはネクロマンサーとしては三流でしかない。
「貴様、見え透いた嘘をつきやがって、どうせ何も無いんだろ」
その男の細かい表情は読み取れないが、かなり怒っている。
「その通りさ、ただ下には無いだけだよ」
「ボシュ」
光の矢が地上に吸い込まれた瞬間に空に作っておいた【重力玉】でそのグールを一気に吸いこませ、他に被害が出る前に魔法を解除する。
これで私の中の魔力は昔だったら殆ど消費してしまうはずだったが、管理者が増やしてくれたおかげでそこまで限界と言う訳では無い。
(もっと増やしてくれたと思ったんだけどな、以外とせこいなあいつは)
「貴様~私の芸術作品に何をしたんだ」
「あれが芸術なのかよ、やはり壊れているんだね」
もうこのままその男を殺してしまった方が正解だと思うが、さっきのが最大の隠し玉だとしたらもしかしたら諦めてくれ会話が出来るかも知れない。
私としては初めて出会う転生者なのだから拘ってしまうのは仕方のない事だろう。
「ふざけろよ、私が負ける訳ないじゃないか……そうさ、死すら私の……この村を救ったのは私なんだ……それなのに……どうして……どうして」
私の事を全く無視して両手の爪を噛みながら意味もなく歩き回っている。
「あのさ、どうしたのかな、もう抵抗するのは止めなよ」
(怖いな、グールよりも怖いよ、どうしよう近づきたくないな)
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ」
完全に正気を失った目をしたその男は後ろにいた女性のグールに噛みつき咀嚼を始めた。
(おいおいおいおいおいおい、怖いよ怖いよ、止めなよお腹壊すよ)
止めたい気持ちはあるが、近づきたくない気持ちの方が上まりただ見ていると、ネクロマンサーの身体が徐々に変化をし始め、身体全体が黒紫になり、首の後ろから足が、お腹からは子供のような手が生えてきた。
「もう止めてくれよ、リプレイ」




