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第八十四話 村の中へ

 地面を滑るようにして向かって行ったアーリアはグールに近づくとその首をいとも簡単に斬り落とした。

 残りの二体は目の前で仲間が殺されたというのにまるで関心が無いようにただ歩き続けているのでアーリアはその二体の首も斬り落としてから戻って来る。


「お疲れさん、楽勝だったじゃないか」

「そうかも知れないけど、本当にそう思う?」


 馬を直ぐ近くにつなぎ止め、少し機嫌が悪いアーリアに連れられて倒れているグールに近づくと、私の浅はかな考え方が嫌になってきた。


「これは魔物じゃなかったんだよな……元はこの村の人間か、そうだよな」

「あのさ、この三体の顔は綺麗でしょ、殺されたばかりでネクロマンサーとの繋がりが弱いから人間だった頃の本能で何処かに行こうとしたんだろうね」


 どこかグールを魔物だと思っていたが、此処にいるグールは紛れもなく元人間でこの村の人達だ。殺した後も利用してしまうネクロマンサーの存在を軽く見ていたのかも知れない。


「なぁムック……いや、いいんだ」


 グールにされてしまった人達を元に戻す方法が無いのかと尋ねようとしたが、その前にリシオの記憶が勝手に答えてくれる。


 ネクロマンサーは人や魔物を操る魔術師では無くて死者を操る忌まわしき存在なんだと。


「あのさ、この中には生きている時と変わらないグールもいるだろうし、子供もいる可能性が高いんだよ、ちゃんと理解しないとあんたがグールになるかも知れないんだよ」

「あぁ分かっているさ、本当は少しだけネクロマンサーに同情もしたし、もしかしたら対話で解決できるかもって思ったけど、もう俺はそいつを許したくない」


(関係ない人達までこんな風にするのはやり過ぎだ)


 どこか村の全滅をどこか違う世界の話だと考えていた昔の私を殴り飛ばしたい。

 

「ねぇ、あんたは相手の事をどれぐらい知っているの?」

「ほんの少しだよ、出来れば壊れる前に会いたかったな」

「ふ~ん……あっ気が付かれちゃったね」


 こんな場所で隠れることなく話していたせいか、十体以上のグールが明らかな敵意を向けながらゆっくりと迫って来ている。


『こやつらはちゃんとネクロマンサーの指示で動いているようですな』

「もう人間じゃないんだよな」

『その通りですご主人様』

 

 アーリアがまたしても私の剣を持って走り出そうとしたので、上半身の露出していない僅かな部分を掴んで走り出さないようにする。


「ちょっと何処掴んでんのよ、あのねぇ子供のグールもいるのが見えるでしょ、あんたにはまだ無理でしょ、だからここは私がやるわ」


 確かに俺が確実に倒せるとは思わないし、倒せたとしても私の心がどうなるのか分からないが、それはアーリアも同じ事だろう。

 それにネクロマンサーと戦うなんて経験が頻繁にある訳が無いんだから経験は私と大差ないはずだ。


 いや、過去の私は経験がある分だけいいはずだ。ただ魔族のグールではあったが。


「俺がやりたいんだ。此処の人達がどんな人たちだったのかは知らないけど死んでも利用されるなんてあんまりだよ、だからネクロマンサーの支配から解放してあげるつもりで倒すよ、子供もね」


 左手を前に伸ばし【混沌の弓】を出現させ、光の矢をセットする。視線は迫ってくる村人達のグールを一体ずつしっかりと見つめた。


「君も、君も、君も、僕も……」


 何処に当てるかちゃんと狙いを定めて呟く。このやり方は勇者の時にやっていたがこんなに辛いのは今回が初めてだ。


「さぁ解放してあげるからね」


 一本の光の矢は放たれた瞬間に複数に分かれ、私が狙いを定めた場所に寸分たがわず刺さって行く。

 音もなく突き刺さった矢から光が溢れ、その身体を泡のように消し去った


「ねぇ今のは魂を浄化したって事なの」

「どうだろう」


 光の泡がアーリアには魂に見えたのかも知れないが、私には僧侶のような事は出来ないのであれは只の光の泡でしかないと思う。


『ムック、あれは魂の光なんかじゃないよな』

『勿論です。そもそも入れ物を動かしているだけですから魂など入っている訳がありません』


「ねぇ本当の事は分からないけど、解放されて喜んでくれたらいいね」

「そうだな、これでいいんだよな」

「まだ村の中にはもっといるんでしょ、早くいこうよ」

「その事なんだけど……」


 アーリアにはムックの背中に乗って貰い、村から抜け出すグールの対処をお願いした。建前上として私の魔法がグールと相性が良いようなので苦戦する事は無いだろうし、それにもし他の場所に行ってしまうグールをも逃がしてしまったら被害が広がってしまうからだ。


 しかし、本音は二つの理由がある。


 一つはもしアーリアがグール化されてしまったら私の心が壊れてしまいそうだから。


 二つ目は、決してネクロマンサーを許したりはしないと思うが、それでも少しだけでも同じ世界の人間と会話がしたい。


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