その九 その後
「リシオ様失礼いたします。お坊ちゃまがお見えなのですがお通しして宜しいでしょうか」
「断る。いいか、儂は旅に出たと伝えて置け」
「へぇ~息子にそれは無いんじゃないか、オヤジ、子供じゃないんだからいい怪訝にしろよ」
ギルド長であるリシオの部屋に入って来たのは、すっかりと大人へと成長したアドリアーノで、この国で唯一リシオに対して軽口を叩ける男だ。
アドリアーノが子供の頃は嫌々一緒に暮らして師匠と呼ばせていたが、いつの間にオヤジと呼ばれるようになり、それに対してリシオは嫌がるどころかむしろ喜んでいる。
「五月蠅いお前が口を出す事じゃない。それになここはギルドなんだぞ、お前のような騎士が入って良いと思っているのか」
「俺がそんなの気にする訳ないだろ、それにな今日は国王様の命令で来たんだよ」
「ちっあいつめ、とうとうこやつを担ぎ出してきやがったか」
「あのな、向こうは国王様なんだから絶対にこの部屋以外ではそんな風に言うなよ、いい、その言葉は聞かなかった事にするから一度会ってくれないかな」
アドリアーノはB級まで上がったのだが、訳があって冒険者を止め、今は小隊を預かっている騎士となっている。国王からの再三の呼び出しを無視しているリシオに対し、親子のような関係のアドリアーノを国王はとうとう担ぎ出した。
「あの野郎はな、儂に勇者を名乗れって言うんだぞ、何度も断っているのにあの馬鹿野郎が」
「いくら何でも国王様を馬鹿野郎と言うのはこの部屋でも止めてくれよ、隠密がもし聞いていたら捕まってしまうぞ」
「なぁ誰がこの儂を捕まえると言うのだ」
(それだからオヤジに勇者と名乗れって言うんだよ、そうしないと何時まで経ってもこの国では勇者が生まれないのが分からないのか)
つい先日、魔国との間に久しぶりの大規模な戦争になってしまったのでギルドからも戦場に行く者が多く出ていた。
リシオは当初全く興味が無かったが、ある村を魔族が襲いかけた時、リシオは前面に出てその魔族の部隊を壊滅してしまった。
結局それが原因で魔国は撤退を始め、今回の戦争はこの国の勝利と言う事になった。
◇
「国王様、やはりリシオ殿はまだごねているようです」
「困ったのう、あ奴がまず勇者になってくれないと他の勇者候補は一生勇者になれないではないか」
勇者とは圧倒的な存在の持ち主に与えられる称号で、国民はリシオの勇姿を吟遊詩人を通して知っている為、他の強者を勇者としても国民からは認められにくくなってしまう。
「年齢のせいなのでしょうか」
「そうなのか、まだ40位じゃないのか」
「いえ、もっと上では無いでしょうか」
「まぁそんな事どうでもいいわい、それより何か別の案はないのか」
「そうですね、それではこんな手はいかがでしょうか」
◇
「オヤジ、入るぞ」
「何じゃまた来たのか、この国にはそんなに人材がいないのか」
(儂は元魔王なんじゃぞ、勇者になれる訳無いだろうが、それにもし他の勇者と会う事になったら…………いや、もう倒せるかもしれんの)
「その話じゃないんだ、今回は前回の褒美を渡したいんだとよ」
「だったらお前が持ってこい、それで終わりで良いじゃないか」
「それは無理に決まっているだろ。向うはこの国の国王様なんだからな」
(あ~もう本当に面倒だわい。いっその事あ奴を殺してしまおうかの、そうなるとこの国にはいられなくなるの……それも面倒じゃな)
「あ~もう、行けばいいんだろ」
「そうしてくれると助かるよ、そういえばさっき聞いたけどギルド長をもうすぐ引退するんだってな、どうしてだ」
「最近の冒険者の連中には碌な奴がいなくて嫌になっただけじゃ、まぁたまにはここに顔を出すがの」
「まだ動けるのにそれでいいのかよ」
アドリアーノはリシオが何百年も生きている魔族だと言う事を知らない。その顔は定期的に老けさせているがそれは只の作り物だからだ。
ただアドリアーノはリシオには何か秘密がある事だけは気が付いていた。
◇
王の城では報酬を渡すだけとは思えない程の盛大な式典が執り行われ、これにはリシオは苦笑いするしか無かったが、それ以上の国王の発言に完全にその顔は固まってしまう。
「……と言う訳でこの者には侯爵の地位を授け。私邸もこの儂の別邸を譲る事にする。それにリシオ殿は軍事顧問に就任してもらうし、息子であるアドリアーノはこれからは将軍とする」
(くそっアドリアーノの出世を人質にしやがった。儂が断ったら将軍にはさせないんだろうな、ったくそこまでして儂を取り込みたいのか)




