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第七十二話 砦の最後

「ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 悲鳴にも似た歓声が砦から聞こえてくる。敵は誰も守る者がいない砦に中に易々と侵入したようで砦を奪回で来たことで興奮の絶頂にいるようだ。


「くそっ何もしないで明け渡すとはな」

「先祖が奪った大切な砦だと言うのに」


 茂みに隠れている兵士からは、隠れている事を忘れて声をあげて悔しがっている。


「あの、もう少し静かにさせた方がいいんじゃないですか」


 司令官に対して部外者の私が言う事では無いが、この言葉を言ったのは私ではなく心の中にいる誰かの怒りにも似た言葉なのだろう。


「あぁそうだな、おいっ皆を静かにさせるんだ。まだ終わった訳じゃないんだぞ」


 誰もが黙ったまま砦を見ている時間が過ぎて行き、ようやく砦の向こう側に隠れていた兵士がやって来た。


「司令官、敵は本陣を砦の中に移したようです、外には若干の兵士が警戒に当たっているだけです」

「そうか、ご苦労だったな」


 そうなるといよいよ私の出番となるのだが、一か八かの作戦の為、喉が張り付いたように緊張してきて身体が思うように動かす事が出来ない。


「あんたは此処にいる兵士を生かしたんだよ、だから失敗したっていいじゃない」


 アーリアが私に覆いかぶさるように抱きしめてくると、背中にそのぬくもりを感じて徐々に緊張が解けてくる。


「どうせ砦は取られる運命だったんだ。後の事は気にしなくていいからな」


 アーリアとネストレ隊長に励まされ、私の頭の上に乗っていたムックを下ろした。


「ムック、力を貸してくれよな」

『勿論ですご主人様、それでは奴らに絶望を与えてあげましょう』


 ムックは再び元の姿に戻りながら体を震わせている。決して緊張している訳では無く、魔力をどんどん高めているようだ。


『それじゃあ準備はいいかい、激しくしなくていいからな、砦の中に風を満遍なく送るんだぞ』

『分かりました。全体に巻き上がったら教えます』


 ムックと意思疎通が出来るがバレると不味いので、いかにも私が何かをしているようにブツブツと呟きながら両手で【混沌の弓】を握りしめている。

 

 何の意味のないポーズではあるが、獣人族達の手前、何かしらしていないと飛び出して行ってしまう恐れがある。


『小さなつむじ風もいくつか中に入れてあるのであの中の視界はかなり悪くなっているでしょうね』

『そうかよくやったぞ』


 砦の中からは混乱したような声が聞こえてくるのでこれ以上待っていたら飛び出してきてしまうだろう。


 どうなるか分からないがもうやるしかない。


 【混沌の弓】を構え、いつもの【光の矢】ではなく【炎の矢】をセットし、しっかりと狙いを定める。


 手が震えこめかみに一筋の汗が流れ落ちるが、これぐらいの緊張なら狙いを外す事は無いだろう。


 右手の指を放すと、矢は飛び出してその姿を【炎の竜】へと変化させながら砦の中に入っていた。


 一瞬、失敗してしまったかのように思えたが、次の瞬間に大音響と共に砦が中から爆発していく。


 想像を超えた光景に見とれてしまい障壁を目の前に出す事をすっかりと忘れてしまったので、よっくりと迫ってきた砂煙と爆風を身体全体で受け止めた私は茂みの奥に弾き飛ばされてしまった。


 粉塵爆発を狙って小麦粉や、可燃する魔石をすべて粉に代えて砦の床にばら撒き、ムックによって巻き上げたのだがここまで上手くいくとは思わなかった。


(みんなは大丈夫なのか)


「行くんだ兵士どもよ、生き残っている奴らにとどめを刺してしまえ」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」


 爆風で飛ばされたのはもしかしたら私だけらしく、獣人族の兵士達は勢いよく茂みの中から砦の跡地に向かって飛び出して行った。


(よく動けるよな、悪いけどもう私は無理だよ)


『ご主人様、何処にいますか』

『此処にいるよ、悪いけど魔力を探って来てくれないか、あっアーリアは大丈夫か』

『小娘はちゃんと隠れて爆風を避けた様で無事ですよ、ご主人様だけが……』

『それ以上言わなくていいよ、俺だけが馬鹿みたいに立っていたせいだろ』



 ◇



 夢の世界にいるのか現実の世界にいるのか分からないが、視界がもやもやしている。目を細めながら意識を集中させるとせわしなく動いている兵士の姿が見えた。


「もう終わったのか」

「意外と早く起きたのね、エルフの妙薬のおかげなのかな」

「妙薬って何だよ……えっ、俺の魔力が完全に回復しているじゃないか」


 私が意識を失ってから半日ほど過ぎているそうなのだが、その間に到着した援軍が持ってきた補給品の中にその妙薬があり、司令官権限で貴重な薬を飲ませてくれたそうだ。


 目を覚ました途端に完全回復した私は砦があった場所を歩いているが、そこは焼け野原のようになっていて、此処に砦があった形跡は殆ど残っていない。


(これは異常な成果だよな、粉塵爆発の効果と言うより魔石の粉の影響が凄いんだろうな)


「ちょっと怖いな」

「あんたがやったんでしょ、他人事みたいに言わないでくれるかな」

「ここまで粉々になる何て想像以上なんだよ」

「まぁいいんだけどさ、それよりもあれで怪我したのはあんただけなんだよね、自分の魔法の効果なんだからもう少し危機感持った方が良いよ、私も恥ずかしかったんだから」


 あんな凄い爆風を受けて全員大丈夫だったというのか、私だけか……。

 



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