第七十一話 砦の現状は悲惨だった
「どうしてこんな事になっているんだよ、これじゃ意味がないじゃないか」
「そんな事はないと思うしか無いな、君のおかげで撤退したのは事実だろう、もう少しで攻略されてしまうところだったんだからな」
私達が役目を終えて砦に戻ると、城門は壊れかけていてその前には敵と味方の死体が多数転がっていた。
聞いたところによると、挑発行為に我慢が出来なくなった一部の者が城門から飛び出して行ってしまったそうだ。
結果はさっきの隊長の言葉が全てだ。
「それでこの馬鹿みたいな騒ぎは何なの?」
アーリアが腕を組みながら顎で指した方には、獣人族が興奮しているのか雄叫びを上げながら激しく踊っている。
「敵が撤退したのは自分達に恐れをなしたからだと司令官が言ったんだよ、味方がかなり死んでしまったんだ。あんなふうにバカ騒ぎをしないとやってられないんだろうな」
挑発行為にうかつに乗ってしまったせいで折角集まった兵士も含めて半数が死んでしまった。もうこの人数では次に攻め込まれたら籠城しても防ぐことは難しいだろう。
その前に援軍が到着しないとどうにもならない事を兵士達は感じていた。
その様子を帝国の騎馬兵達は冷めた目で見ている。彼等は当初の作戦通り砦の上からしか攻撃をしてないので誰一人として失っていなかった。
「馬鹿だね、どうするのよ」
「早く援軍が来てくれるか、敵がこのまま大人しくしてくれないとな」
「そんな賭けに出ないように狙撃しに行ったのに意味がないじゃないですか」
この怒りとも悲しみとも言えない気持ちは私としては初めての経験だ。
何だか言葉にするのも空しくなりその光景を眺めていると、俺達と行動を共にしていたオグ達が疲れたような顔をしてやって来た。
「あの、司令官が呼んでいるので来てくれますか」
「あぁいいよ」
(どんな話を聞かされるのか分からないが、もうスッキリとした結末にはならない様な気がする)
◇
連れて行かれた小さな部屋の中には私達と司令官と副司令官しかいない。
扉が閉められ外の雑音が全く聞こえない程の密室になるといきなり目の前の二人が頭を下げてきた。
オグ達は上官のした行動にどうしたらいいのか戸惑って動けない様なので代わりに私か二人の身体を上げさせようとした。
「止めて下さい。そんなのは意味のない行動ですよ」
「これしかお詫びのしようが無いんだ。部下の暴走は止められなかったし、君達のした事を言う訳にはもういかないからな」
「えっどういう事、シューヤが本陣を攻撃したから敵は撤退したんでしょ、そうじゃ無いって言うの」
私はどうせそう言いう事だろうとは思っていた。此処迄の被害を出してそれが意味のない事だと知ってしまったら戦う気力がそがれてしまうだろう。
(頭では理解出来るんだ。そうした方がいいのは分かっているよ、ただ本当にそれでいいのか)
「もういいですか、もう俺達は国に帰りますので」
「ちょっと待ってくれ、もう少しで援軍が到着するはずなんだ。だがその前にまた攻め込めれたらこの人数ではどうにもならん。戦争が終結したら君達の功績をちゃんと認めるからもう少し一緒に戦ってくれないか」
「そうしたいんですが、ご期待に応えられる程の魔力はありません」
(これは嘘ではなく本当の事だ)
私としては一刻でも早く砦から逃げたいが、私の頭の中の俺達は次々と新たな案を頭に浮かべてきた。
その中には私の世界でしかありえない考えもあるので、俺達は全ての記憶を共有し始めているのかも知れない。
全てが一つになるのか、本当だったら気持ち悪いか恐怖を感じるのかも知れないけど何故だかそれが正しいように感じてしまう。
全ての私が同じだからなのか…………。
◇
「ねぇこれで本当に上手くいくの」
「どうだろうね、俺も実際に経験した訳じゃないからな、ただあそこで待ち構えるよりいいんじじゃないか」
今は生き残った全員が砦を見渡せる茂みの中から見張っている。私の提案が通るとは思わなかったが、援軍の到着が遅れるとの連絡が入ったのと、偵察部隊が敵が反撃の準備をしているとの情報を持ち帰って来たのも加わって司令官は私の提案を受け入れてくれた。
その説得の道筋を見つけるまで何度も【リプレイ】を使ったのか分からないが、アーリアにとってはまるで私の話方が恐ろしく流暢聞こえたようでかなり関心をしてくれた。
砦の中にはまだ大量の物資があるから出来る作戦だとは思うが、それが私の思い通りに行くのかは分からない。
それでも援軍が来る前に砦で籠城したところで全滅するだけだ。
「君には悪いが、本当に砦を放棄していいのか未だに分からんよ」
「司令官がブレてどうするんですか、いいですかこれしか人数がいないからいけないと説明しましたよね、仮に敵が来る前に援軍が来たら当初の作戦に戻れば良いじゃないですか」
私だってさっきまで砦の中で準備をしながらこれが上手くいくのか不安でしょうがない。
魔王や勇者みたいに魔法をふんだんに使えるのだったらどれだけ楽だっただろうか、逃げ出さないで助けようとしているんだからそれ以上の言葉を話さないで欲しい。
出来る事ならこのまま援軍が到着するまで平和であって欲しかったが、残念ながらその希望は一砕かれてしまった。




