その八 それから
「リシオ様、魔族がこの街を目指して進攻中だそうです。ギルドにも協力要請が入りました」
「魔族だと、どの種族が攻めて来たと言うんだね」
「種族ですか? そこまでの情報は入って来ておりませんが」
全く馬鹿な連中だ。種族によって戦い方を変えた方が良いのにその事すら理解していない。
こんな人間が多いから隣国のサンブルの共和国は滅ぼされてしまったんだ。
あまりにも簡単に滅ぼせたから次はこの国を狙っているんだろう。
こっちとしては折角のんびりと暮らそうとしていたのにいい迷惑だ。
現役時代はA級冒険者であったリシオであったが、訳があって今はギルド長に就任している。
「あ~もう面倒だな、アドリアーノがいつものダンジョンに潜っているから直ぐに呼び戻すんだ。戻り次第二人で様子を見に行ってくるわい」
「えっお坊ちゃまと二人だけですか、出来れば国王軍に加わって欲しいのですが」
「五月蠅い、他の連中は軍に加わるように言え、儂らは自由に行動すると先ずは領主に伝えるんだぞ、いいかそれが気に入らんのなら儂等はこの国を見捨てるからな」
◇
二人で手なずけた飛竜に乗ってベクト山を目指していく。その先では魔人が猛威を振るっているそうだ。
「オヤジ自らが偵察に行くとは思わなかったよ、どうせそれだけじゃ終わらないんでしょ」
「相手によるがな、もし悪魔族がいたら面倒だから引き返すかも知れんな」
「オヤジは悪魔族が苦手なのか」
「そうだなぁ、あんまり戦いたくはないな」
(今の儂の魔力では手間取ってしまうだろうな、けど、やらんと奴が来るか)
「それなら勇者が来るのを待つしかないんじゃないか、数日もすればこの国に到着するんだろ、オヤジと力を合わせれば何とかなるんじゃないか」
「ふんっ、勇者ねぇ」
(それが一番問題なんじゃよ、どんな勇者か知らんが勇者と言うのであれば儂の正体を見破るかも知れん。だからその前に魔族を退けるか、儂がこの街を、いや、この国から逃げるかだ)
しかしリシオはここの生活をかなり気に入っているのでなるべくは逃げたくは無かった。
◇
「オヤジどう? 何族なのか見えているかい?」
「あぁ儂の不安は的中しなかったようだな、単細胞の奴らしかおらんわ」
隣国を滅ぼしたのは悪魔族が中心だと聞いていたが、今回は巨人族が中心となってやって来たようだ。悪魔族と巨人族は一緒に戦う事を好まないのが幸いした形になった。
「さて、お前にも頑張って貰うからな、早く準備せい」
「えっ……ちょっと待ってよ、本当に二人だけで戦う気なのかよ、あれは冗談で言ったんだぜ」
「たかが先行部隊の二、三百体じゃないか、心配せんでも直ぐに終わらせるからの」
呆れたようにリシオを見ているが、一度言い出した事を決して曲げない事を良く知っているアドリアーノは渋々準備体操をし始めた。
魔人達は山の間の平地で休憩をしていた。中央にはサイクロプスたちの巨人族がいて、その周りにオーガ族や土蜘蛛族がいた。
そして奴隷のように雑用をしているコボルト族がかいがいしく世話をしているようだ。
(どこの魔王か知らんが余程馬鹿なんじゃろうな、こんな偏った編成をして良いと思っとるのか)
「さぁ準備はいいか、儂の魔法の次はお前が嵐を起こすんじゃぞ」
「分かったよ、ただ効かなかったら此処から撤退するんだぞ」
「ふんっお前は知らんが奴らにとって相性が悪すぎる魔法なんじゃよ……さぁお前らの苦しみの声を聴かせてくれよ、煉獄火波」
空から粘度の高いマグマのような液体が魔人に降り注ぎ、その魔法に触れた魔人達は徐々に身体が溶け始めていく。
「ぐぅがぁ~助け……」
「誰か、反射魔法を使え」
「いや、反転魔法を使うんだ」
「何処に魔法を使える奴がいるんだよ」
「いいから逃げるんだよ」
我先にと逃げ出し始めた魔人達だったが、そこにアドリアーノの嵐が襲いかかる。リシオの魔法と重なって誰一人として逃れることなく命を散らして行った。
「……どうじゃ、儂の言う通りだったじゃろ」
「まさかここまでとは……」
「どうじゃ、お前といつか使ってみたくてずっと考えていたんじゃ」
「あのさ、俺の魔法が制御が効かないんだけど、あれはどうなるんだ」
「知らん、儂も制御が効かなくなったからな、そのうち消えるんじゃないか」
制御を失った合同魔法は更に被害を広げていくが、リシオは消火出来る魔法を唱えようとはしない。
◇
「一体何があったんですか、魔人共は休戦を申し込んできたみたいですぞ」
「ふんっ、よくもそんな事を言い出したもんだな、奴らは嫌がらせで森や山をあんな事をしたくせにな」
リシオはただ二人で偵察に向かっただけとして、火災の被害はすべて魔族のせいにして領主に報告をしていた。
直ぐに領主が偵察に兵士を送ると魔人の姿はなく、数日後に魔族の使者が休戦を一方的に申し入れてきた。
勇者は王都で待機していたがそのまま自国に戻って行った。
リシオとアドリアーノ以外は一体何だったのか理解が出来なかったが、国境付近の防衛に力を入れる事に忙しくその原因を調べる暇がなかった。




