第七十話 司令官を殺せ
丘の上から敵の本陣を確認すると、私が聞いた情報よりもかなり離れてしまっている。
「ちょっと聞いていた話と違うんだけど、どういう事なんだ」
「申し訳ありません、情報が正確では無かったようです……あの、どうですか」
「どうもこうも無いよ、俺の射程距離は伝えただろ、君はあそこを見てどう思うんだい」
「すみません……」
どうりで丘に敵が誰もいないはずだ。ここからだと肉眼で本陣は見えるが、個体を判別できる距離じゃない。
空気がかなり悪くなってしまったが、もうどうでいい。
『ムック、悪いが本陣に向かって全速力で向かってくれ』
『えっ突撃をするのですか、面白い考えではありますが、危険ですよ』
『良いんだ。頼んだよ』
アーリアをその場に下ろしてから何も言わずにムックと一緒に本陣に向かっていく。
速度制限が無くなったムックはものの数分で本陣の目の前に到着したが、既に敵に発見されてしまっているので私達に投石が降り注いでいる。
『くっ、面倒な事をしやがって』
「ありがとう、情報は手に入れたよ、リプレイ」
出来れば司令官らしき個体も発見したかったが、残念ながらそこまでは上手くいっていない。ただし何処で敵が気が付くのかや、良い場所を発見することが出来た。
◇
「本当にお一人だけで行くのですか」
「本陣の中に行くんじゃなくて、狙える場所に行くだけさ」
「それでしたら私達もお供させてください」
「此処からは見つかりやすいだろ、成功させたいのなら此処にいてくれ」
ムックは低姿勢で進む事は出来るが、一角馬にはそれが出来ない。彼等が一緒に来てしまったら私が狙っている場所に辿り着く前に見つかってしまうだろう。
ムックに目的地の場所と方角を告げると、今度は最速では無いが音を出さないで静かに移動してくれた。
『丘からあの場所を発見したんですか、見えにくいのに良く発見出来ましたね』
『まぁ……そうだね』
思わず私の手柄にしてしまったが、本当はこのコースとこの場所を見つけたのはさっきの【ムック】だ。あの速度で走りながらも冷静に情報は流してくれていた。
『小娘は置いて来て良かったんでしょうか、かなり怒っていましたね』
「しょうがないんだよ、何があるか分からないからね」
草をかき分けながら息を潜めて本陣を見ると、予想以上の数の魔人が歩いている。
「誰が司令官なんだろうな」
『中にいるんでしょうか』
「仕方が無いな、ここから突撃して見ようか」
『面白いですな』
ムックは身を潜めながら飛び出してくれた。何度か【リプレイ】を繰り返し、時間制限がある中でようやく司令官らしき魔人のいるテントを付きとめる事が出来て倒す事は出来たがムックが大怪我を負ってしまった。
逃げきれなくなり、またしても【リプレイ】する羽目になってしまったが、ここでおかしなことに気が付いた。
(どんなに【リプレイ】をしても魔力が減っている気がしないな、管理者の贈り物だからかな、まぁ調子に乗って乱発したら後で後悔しそうだけどな)
「あのさ、またここから一緒に魔法を放たないか?」
『そうですな、ご主人様の指示に従いますよ。任せて下さい』
ムックは合同魔法がよほど嬉しいのか魔狼の姿のままで尻尾を振っている。俺はそのムックに指示を出しこの前よりも大きなつむじ風を二つ出して貰って、私はその中に刃物の様にとがらせた鉱物を大量に仕込んでいった。
「飛ばすんだムック」
『了解しました』
本陣の左右から危険なつむじ風が襲いかかると、簡易的な建物しか無いのでそれらをバラバラに壊しながら進み、魔人達は巻き込まれると身体を切り刻まれながら倒れて行った。
「ムック、どんな感じなんっているか分かるか」
『そうですね、中には死んでしまったリザードマンもいるようですが、オーガにはそうでもないみたいですね、まぁ怪我はしているので本来の動きは出来ないと思いますが』
「そうか、いまいちだったな」
それに【リプレイ】する前にみた指揮官らしき男のテントも吹き飛んでいるが、砂煙のせいで司令官は見失っている。
『どうしますか』
「混乱はしている様だから、本陣の中に入って狙撃する事にしよう」
『あの、それは狙撃とは言わないようですが』
「あっ何か言ったか」
『いいえ、それでは行きますか』
これが失敗してもやり直せば良いだけだ。魔力の不安が多少あるがやってみるしか無いだろう。
ムックは再び気持ちよさそうに走り出していく。まだ本陣の中をつむじ風が暴れているせいかこの中は混乱しているので魔狼の上に乗っている私に注目する者はいなかった。
「あっ斜め左前に進んでくれ」
前に指揮官だと睨んだリザードマンが肩を担がれながら歩いていた。どのリザードマンも同じような顔をしているのだが、他の連中は鎧を身に着けているのにその個体だけ上等な平服を身に着けているので油断をしている指揮官だと信じるしかない。
この近くにはそれなりの数がいるので直ぐにいつもよりも大きな【光の矢】を放つと肩を貸しているリザードマン事その上半身を吹き飛ばした。矢は二体を倒した後も射線上にいたリザードマンを殺し、オーガに深く刺さってから消えてしまった。
「アイディ将軍~~~~」
(よしっ当りだったな)
近くにいた者が不用意に叫んでくれたおかげで私の目的が達成された事が分かったので、此処からは何度も経験したように逃げるだけだ。
「アーリアの元の退却しよう、どうだ逃げ切れるか」
『当たり前ですよ、愚鈍な連中に追いつかせません』
二つのつむじ風を上手く利用しながらここから逃げる事にする。
これでリザードマンの将軍であるアイディは死亡したが、オーガ族のジャワラ中将が無事だと言う事は気が付いていなかった。
年内はこれで最後になります。
来年は10日前後から再開したいと思います。




