第六十九話 森の中に
東にある小さな城門の前で合図が来るのを待っている。
此方側には敵の姿が無いので問題は無いと思うが、万が一の事を想像すると心臓の音が激しく音を奏でている。
「ねぇ自分から言い出したくせにそんなに緊張しないでよ、こっちまで緊張してくるでしょ」
『ご主人様、私に任せてくれれば大丈夫ですよ、伏兵がいたとしても何ら問題はありません』
「そうなんだけどさ、緊張するのはどうしようもないだろ」
反対側では敵の注意を引き寄せるためにわざと激しい攻撃をしてくれることになっているのだが、向こうには決して届かない攻撃に逆に変な風に勘繰られてしまうのではないかと心配してしまう。
それに何時まで経っても魔法による攻撃が無いと分かったらその内に総攻撃を仕掛けてくるのではないだろうか、そうなると此処にいる兵士だけで砦を守りきれるかは私には分からない。
(まさかまた飛び出したりはしないよな、そうなると……変な事を考えるな、そうさせない為に私は行くんだから)
「それではお願いします」
上からの兵士の声と共に目の前の城門が開かれた。直ぐにムックは先頭で飛び出してその後を三頭の一角馬が付いて来る。
私達の護衛として付いて来るのは小隊長のオグとその部下であるリントとサルバンで彼等は皆が猿人型獣人族だ。
あえて猿型獣人族だけで揃えたのは、無謀な攻撃を仕掛けた獣人族の中に猿人型がいなかったせいだ。たまたまなのかは知らないが、猿人型獣人族は冷静な判断が出来ると信じるしかない。
勿論、私が勝手に指名したので他の獣人の兵士からはかなり文句を言われたが、森の中での移動となるからなどと適当な言い訳をして誤魔化した。
(まさか、賢そう何て言える訳無いしな)
『ご主人様、あいつらはやけに遅いんですけどどうしますか』
『そうなんだけどさ、少しだけ我慢して合わせてくれないか』
『はぁ~そうですか、アホ馬の速度に合わせると疲れるんですよね、ほらっそのせいで見つかりましたよ』
かなり迂回をしていたのだが、こんな場所にも別動隊がいた様でオーガに私達の姿を見られてしまった。
「オグ小隊長、どうしますか戦った方が良いんですかね」
「いや、とりあえずは戦闘は避けてみましょう、もしかしたら砦から逃げ出しただけだと思うかも知れません」
◇
森の中に紛れ込んだせいか直ぐにオーガの声が聞こえなくなったのでたかが少人数の此方を追いかける事を早々に諦めたようだ。
先頭を走るのは小隊長のオグになり、ムックは一番後ろに下がって走っている。
「ムックは森が苦手なのかな、いきなり遅くなるんだもんね」
『小娘め、始めて入る森なのだから仕方が無いだろうが、ご主人様、こやつを振り落としてもよろしいでしょうか』
『止めろよ、事実なんだから仕方が無いだろ』
『むぐぐ……』
アーリアはムックが元の姿に戻って最初は気分が良いようだったが、可愛げのないこの姿が徐々に嫌になってきたようだ。
特に森の奥に入ってから一角馬に付いて行くのがやっとのムックを見てその思いは高まったようで、その行動ではなく、容姿に付いてかなりの文句を言い始めた。
言葉が分からないと思って悪口を言っているのだが、全てを理解しているムックにとってその悪口はかなりイライラさせていた。
「あのさ、それ以上文句を言うなって、ムックが可哀そうだろ」
「平気よ、魔狼なんてそんなに頭が良くないんだから」
『くそっ小娘がぁ、殺してやろうか』
『ごめんな、頼むから耐えてくれ』
オーガを巻いてからどれぐらいたったか分からないが、オグがその速度を緩めたのでそろそろもう一つの段階に入るようだ。
「もう少しで深い森を抜ける事になります。その先は木がまばらになっているので慎重に進みます」
「君に任せるよ、いい狙撃場所まで連れて行ってくれ」
この私に勇者や魔王の魔力があればもっと楽に狙撃場所に行ける魔法を知っているし、それこそ向こうに魔族の将軍クラスがいなければ一人でも大丈夫だと思う。
(身体もこんなだし、無い物ねだり何だけどね)
「ねぇまだ時間があるんだから一度休憩しない?」
一瞬アーリアは自分が疲れたので言ったのだろうと思ったが、アーリアの視線の先には疲れた様子を見せている一角馬がいる。
「そうですね、そうしますか」
一角馬を休ませている間に兵士達が偵察に行っているのだが、中々戻って来ない。
「ちょっと遅くない、どうかしたのかな」
「う~ん、あまり変な魔力は感じないから近くにオーガはいないと思うだけどな」
するといきなり木の上からオグ達が戻って来た。
「お待たせしました、朗報です。一番いい候補地の丘には敵の姿が見えません」
「そうか、それなら早速移動しようか」
当初の狙い通りの場所に行けることになったのだが、順調に進んで行くとどうしても不安を感じてしまう私がいる。




