第六十六話 連合軍再び
敵は魔法を恐れているのか、微かに見える程の距離に本陣を作って、あの日からもう二日も過ぎてしまったというのに攻め込んでくる気配は無かった。
獣人族もただ待っているのではなく、二回に分けて偵察部隊を送ったが、一度目はそれなりに情報を持ち帰って来たが、二回目の偵察部隊は誰一人として戻っては来なかった。
砦で開かれている作戦会議には私は参加しなかったのだが、寝かされている部屋の中に疲れた顔をしたネストレ隊長が入ってくる。
「どうだね身体の方は、食欲は戻ったと聞いているんだが」
「もう身体は普通に動けますが、アーリアが部屋から出る事を許してくれないだけです」
「そうだったのか、だったら相談に乗ってくれないか」
その内容は援軍が到着する前にもう一度敵が姿を見せたらまた【メギド】を撃って欲しいとの事だった。
「申し訳ないですけど多分無理ですね、思った以上に身体の中に影響が出てしまったようで、未だに殆ど魔力が回復していないんですよ」
少しだけ大袈裟に言ったのだが、半分程度までしか回復していないのは事実だ。ただこの魔力は戦争をする為ではなく、俺とアーリアがここから脱出する為に使いたいので無駄に消費したくはない。
(自分から此処に来て何だけど、一時の感情でここに参加した事は間違いだって気が付いたからな)
「そうだよな、宮廷魔術師でも簡単に使えそうみない魔法が何度も使用できる訳ないよな……ちょっと失礼する」
ネストレ隊長は苦笑いを浮かべたまま部屋を出るといきなり走り出したので、この事を司令官に伝えに行ったのだろう。
この私は勇者でもないし魔王でもないのだからこれ以上は期待しないで欲しい。
『なぁムック、リシオはあんな魔法を何度も使えるのか』
『そうですね、見た訳ではありませんが使えるでしょうな、それにリシオ様の魔力を使わなくなくてもいいようにスケルトンを側に置いていたようですよ』
『んっ?…………あぁそう言うからくりね、やはりあいつは……』
「カンカンカンカンカンカンカン」
再び砦の中にあの鐘の音が鳴り響いた。
嫌な予感が頭をよぎるがそんな事を考えている場合じゃない。
ムックを抱えて部屋を飛び出すと、丁度アーリアも私の部屋に向かってくるところだった。
「また来たらしいよ、どうする?」
「まだ考えは決まっていないが、先ずは様子を見に行こう」
先程まで此処を離れる気でいたが、私の中の俺達は戦う気になっているのが感じられる。
(はぁ、どうするよ、暴走だけはしないでくれよ)
砦の中は私が休んでいる間に援軍の一部が到着しているので、それなりの人数の兵士達が右往左往していた。
◇
この間と同じ場所で下を眺めると、この間はある程度まとまっていた敵の部隊は広範囲で広がっているので例え【メギド】を私が使ったとしても本来の使い方が出来ないので前よりも効果を出す事は出来ないだろう。
(それにリシオに匹敵する魔力を得る為にあの方法は使いたくないしな、それじゃリシオと一緒だよ)
「あっ君はもしかして……」
司令官が私を見つけて肩に手を置いたので、首を横に振るとてっきり失望したような顔になるのかと思ったが、ただ私の身体の心配だけをしてくれた。
そして司令官は先が丸くなった杖に向かって大声を張り上げると、その声は砦全体に響き渡った。
「敵の姿をよく見てみろ、どうだまともな姿の奴は半数にも満たないじゃないか、いいか決してひるむなよ、この砦を絶対に死守するんだ分かったな」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
砦の全てが震えるような雄叫びが響き渡り、一斉に矢が飛んで行くがそれをまるで気にしない敵が走り出してくる。
「俺達に出番だ、突撃~」
小さく嫌な声が聞こえたので下を覗いてみると、一角馬隊の連中が砦を出て敵の左側から攻めようとしている。
「あいつら何を考えていやがるんだ」
副隊長が近くの壁を殴り、頭を掻きむしりながら一角馬隊を睨みつけている。
『まるで成長していない連中ですね、それもオーガの方へ向かうなど、余程早く死にたいのでしょうな』
(クンクン、クウ~ン)
ムックの耳に聞こえる声は可愛らしい声が聞こえてくるが、私の頭の中には辛辣な言葉が聞こえてくる。
「あの馬鹿共が、そんなに死にたいのか、悪いがモデストは此処に残ってくれ、俺は少し連れてあいつらを追いかける」
「隊長、無理はしないで下さい」
「あぁだがあいつらに無駄死にはして欲しくないんだ」
ネストレに肩を叩かれた兵士は隊長と共に走り出したので、思わずそれに付いて行こうと身体が勝手に動き出したが、私の手をアーリアが掴んだ。
「何を考えてるのよ」
「何て言ったら良いか分からないけど、ごめんな」
「あんたの馬何て無いんだよ、一角馬なんて操れないでしょ、馬鹿な真似は止めなよ」
その言葉を聞いた途端にムックはアーリアの頭に上から飛び降り、その姿を変えていく。
その姿は私が知っている魔狼の姿ではなく、銀色の毛並みを持ってその頭の上にはドリルのような角が三本生えていた。
『ご主人様、どうかお乗りください。私がご主人様の脚となります』




