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第六十四話 インベルガーはどうしてそうなんだ

 このタラント砦は岩山を利用した砦となっており、かつてはこの砦が爬虫類型獣人族の最前線の軍用基地だったそうだ。


 此処の砦は向うにとって重要な砦だったそうで是非とも取り返したいのだろう。


「攻略されたんだから此処に拘らないで迂回すればいいのにな」

「あのね、そんな簡単には諦められないんだよ、それに迂回してもここの兵と本隊からの兵で挟み撃ちになるじゃない。まぁそんなに此処には兵はいないんだけど向こうは知らないからね」


 元傭兵だけあってアーリアは冷静に分析しているようだ。ただサラリーマンだった私には軍属の思いなど分からないし、軍に属していた時に記憶はとてもでは無いが参考に出来ない。


「カンカンカンカンカンカンカン」


 けたたましい音が鳴り響き、一気に砦の中騒がしくなってくる。


「もしかして始まるのか、情報と違うじゃないかよ、なんだか怖くなってきたんだけど」

「だから帰ろうかって言ったんだよ、始まったら簡単には帰れないんだからね」


『ご主人様、心配する事はありませんよ、相手はオーガ族ですよね、リシオ様は無理やり従えさせていましたよ』

『どういう事だ、あの城には不死族しかいなかったような記憶があるんだが』


 あまりリシオの記憶を探りたくないし、私がリシオの中に入る前の事は知らないが、覚えているのは勇者に攻め込まれた城の中にはオーガ族はいなかった。


『私はその時の事を知りませんが、リシオ様は粗暴なオーガ族を側には置かなかったようです。離れた場所に居てもオーガ族はリシオ様には逆らえなかったようですね……本当にご主人様はリシオ様ではないのですね』


『悪いけどそう言っただろ、ほんの少しだけ奴の身体の中にいただけなんだ』


 この表現が当たっているのかどうか知らないが、管理者が私とリシオは別の存在だと言ったのだからこれしか言いようがない。



 ◇



 砦の屋上にある見張り台から森の様子を眺めている。この下は垂直ではなく急坂になっているので登り難いが此処から飛び降りて下まで一気に降りる事が出来る。


 ちょっと変な造りだが、向こうからの矢は届きにくいがここからだとかなり先まで矢が届く様になっているそうだ。


「予想以上に早く連中が到着しそうだが、まだ緊張しなくても大丈夫だぞ、それに君達はいつでも逃げて良いんだからな」


 ネストレ隊長が私の肩に手を置きながら軽い口調で話し掛けて来たのでこの私が緊張で震えているのだと思っているのだろう。


 だが、私の身体が震えているのは緊張や恐怖で震えているのではなく、連合軍の気配を感じて身体の奥底から怒りが溢れ出て来るのを押さえているだけだ。


「トカゲ野郎め、馬鹿と手を組んだからっていい気になりやがったな」

「ちょっと、あんたどうしたの」


 アーリアの言葉を無視して森を見つめていると、森の境目からリザードマンとオーガの群れが続々と湧出でてきた。


「パ~パラッパ~」

 

 何処からか楽器の音が鳴り響き、いよいよ戦闘が始まろうとしている。私にできる事はそれほど多く無いが多少の手助けが………………。


 いや、そんな訳にはいかない。


 身体中に流れる血液がどんどん熱くなってきて、心臓の鼓動が音楽を奏で始める。奴らの姿を見ていると口角が上がり、喜びで笑いたくなってくる。


「てめぇらぶっ殺してやる」


 私の口から勝手に言葉が漏れると、隣にいるネストレ隊長の剣を奪って見張り台の上から飛び降りて駆け出した。

 俺の狙いは雑魚ではなく、今はまだ後ろに隠れているはずの指揮官だ。


(おいおいおいおいおいおいおい、待て待て待て待て待て待て、これじゃ昔と一緒じゃないか、誰でもいいからインベルガーの俺を押さえてくれ)


「………………リプレイ」


 楽器の音が鳴り響く前に戻った私は急いであの魔石を握りしめる。それでも気持ちは高まって行くが、徐々にその気持ちは静かになって行く。


(落ち着けって、いいかこの身体だと簡単に死ぬに決まっているんだぞ)


「パ~パラッパ~」


 楽器の音が鳴り響くと、再び私は暴走してしまい同じ事を繰り返し、またしても同じように回避したが、三回目ともなると敵の眼前にまでたどりついてしまった。

 それでも何とか【リプレイ】で再びあの時に戻る。


(くっそ~俺め、抵抗しやがって、だったらその前に)


「ネストレ隊長、もう魔法を撃っても良いですか」

「えっ、何を言っているんだ。今は駄目だが、矢と同時だったら好きにしなさい」

「わかりました準備だけします」


 もう少しでまた楽器がなってしまう。今度は【リプレイ】をさせてくれないかも知れないが、これなら暴走しないでくれるかも知れない


「何をするつもりなんだ」

「見ていて下さい」


 湧き上がって来る怒りをそのまま魔力に移行し、空に向かって手を翳すと同時に楽器の音が鳴り響いた。


 この私が攻撃の意思を示しているのでインバルガーは暴走しないでいてくれている。


 リザードマンやオーガが砦の下に近づいてきたと同時に弓が発射したが、その事は想定済みらしく盾を掲げて矢の雨をしのいでいる。


「さぁお前らの苦手な魔王の魔法だ。心して受け取れよ……メギド」


 準備していた直径100mはあるであろう火球が空から落ちてくる。リシオであったらその火球を分裂し確実に敵に当てたはずだが、残念ながら今の俺にはそこまでの魔力は持っていない。


 だがそれでも充分だろう。

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