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第五十九話 クヌートの問題

 他の子供達は迎えに来た親と一緒に別室に移動を始めているが、クヌートはただ一人でその後ろを付いて行っている。


『ご主人様、私が行ってきます』


 ムックがアーリアの手の中から抜け出してクヌートの胸の中に飛び込んで行く。


「あのさ、何があったんだ」

「最低な事だよ、それより今は私達が側にいてあげようよ」


 二人でクヌートの側に行くと、涙を流し始めたクヌートがムックをしっかりと抱き締めている。


『ご主人様、身体が汚れるのでどうにかして貰えませんか』

『いいからそのままにしていろ』


「あの……やはり僕には変える場所はもうないようです」


 涙を流しながら話してくるクヌートに対してアーリアは強く抱きしめ、少し落ち着いたクヌート共に王の間を出ていった。

 私も一緒に歩きだしたのだがオスカリに肩を掴まれたので、二人を見送るようになっている。


「彼の元には族長と彼の両親がやって来たんだよ」

「族長って、クヌートが言っていた友達の親ですよね」

「そうだよ、それがな…………」


 自分の息子の名前が無いのは何らかの手違いだと信じたかった族長はクヌートの両親と共にこの場にやってきたそうだ。

 何故、一緒に行動していたはずの息子の姿が無いのかとクヌートに尋ねると、そのありのままをクヌートは話した。


 聞き終えた族長は茫然とした表情でそのまま退出し、クヌートの父親は無表情になり、平手打ちをした後で母親と共に出て行ってしまった。


「酷いな、それに国王の前でよくそんな事が出来たもんだな」

「国王様も困ったような顔をなされてな、ただクヌートには優しく両親が落ち着くまで城で暮らしても良いとまで言われたんだ」


「それは言い提案かも知れませんが、それにしてもどうしてクヌートの両親はそんな真似をしたんですかね」


「ここに来る前に調べたんだが、クヌートの村はこの国では戦士の村と呼ばれていてな、その村の者は誰かを守る時には決して引いてはいけないそうなんだ」

「引いてはいけないって言っても勝てない事もありますよね」

「その場合は名誉の死を遂げなくてはならないんだとさ」


「馬鹿な、この国は全部がそうなんですか」

「そうではない。クヌートの村が特別なんだ。そもそもその村の者は誰一人として働いていないそうなんだ。彼等は戦う事が仕事なんだよ。彼等には存在するだけで国から金を貰っているんだ」


 私には理解出来ないし、だとしたら国王にも責任の一端があると思う。国王と直に話すかクヌートの両親の方へ向かうか決めかねるが、胸にしまっていた魔石を握りしめると心が落ち着てきて、この状況でその両親を問い詰めても碌な事にならないように思えてきた。


 ◇


 私達が案内された部屋の端にはアーリアとクヌートが他の子達と離れた場所に座っている。

 両親と一緒にいる子供達の表情は誰もが輝いているよう見えるので、族長が何を思ったとしてもクヌートの両親だけは味方でいて欲しかった。


「クヌートはもう村には戻れないだろうな、国王様は何か対策を取ってくれるといいが、僕はもうこの国には期待しない方が良いと思う」

「どうしてですか」

「国王がその村の事を重要だと思っているから好待遇を与えたんだぜ、そこを脱落した者に温情を掛けたらその村の者は命を掛けたくなくなるだろう」


 私は獣人族の国は平和で全体的に暖かい国を勝手にイメージしていたが、内情はそうではないようだ。


「だったらクヌートをこの国には任せたくないですね」

「だからと言って君は冒険者にさせるのかい」


 冒険者として暮らすのであれば戦いは避けられないので、クヌートには不向きだし、そもそも獣人族が帝国内を自由に動けるのかも分からない。


「無理ですよね」

「理解出来たか、だから彼は私の所で働けばいいんだよ、これからはこの国と取引が増えるから港町エサイアで仕事をしてもらうのさ、そこなら獣人族との交流はあるしもし状況が変わったらいつでも国に戻ればいいんだ。まぁ彼次第だけどな」

「それなら喜ぶと思いますよ」


 私にできる事は少ないし、会う機会もかなり減ってしまうが何かあったら必ず助けようと思う。


「それは良いんだけどさ、あの公爵があの程度だとはがっかりだな、てっきり対策をしていると思ったのに……残念だよ、そのおかげで僕の計画が少し変更しなくてはいけなくなったな」

「共和国ともいい関係が築けるはずだったのに残念でしたね」


 この私と仲良くしている限り共和国とは上手くいかなくなると思うし、その事は理解しているはずだが決してその事についてオスカリは何も言わないので此方からあえて聞く事はよそうと思う。

 

「まぁいいさ、君のおかげで皇帝との繋がりを持てたからね」

「そうですか……あっ訓練て何の事ですか?」

「あぁそれね、本当は君とは関係ない話だったけど、国王様に誘われたんだからやるしかないな」


 獣人族は個々の戦闘能力は人間より高いが、集団戦は苦手なのだそうだ。

 その為に国王が皇帝に騎馬隊の戦略の知識を教えて欲しいと直々にお願いをしたそうだ。


「だから王都からわざわざ騎馬隊が来たんですね」

「そうさ、ただの護衛なら王都から来ないだろ、皇帝は迷惑をこの国に掛けたから優秀な人材を派遣してす少しでも借りを返そうと思ったんだ」


 だとすると私が参加するのは邪魔でしか無い。


 オスカリはクヌートが落ちついたと判断し話し掛けに行くと、ものの数分でクヌートがルカメヤ商会で働く事が決定した。


(まぁこれで安心だけど、ちょっと怖いぞ、オスカリさん)

 


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