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第五十八話 退場

 国王に無下にされた公爵は睨んでいるし、他の人達も俺の挙動に注目している。


「君はあそこで連中と話したんだろ、それで君は何を思った?」


(あぁ私の口から言わせたいのか、それでも誇張はしない方が無難だな)


「子供達を攫った者達は私が駆けつけなければあの場で殺されていたでしょう。折角の取引相手にそんな扱いをするという事は他にも誘拐を商売をしている連中がいると思います。それに地理的な問題からも共和国の可能性が高いと思います」


「何を言うんだ。勝手に妄想を話すんじゃない。貴様は共和国を侮辱すると言うのかね」


 公爵が冷静であったのなら気が付かないはずは無いのだが、その事を認めたくないのだろう。

 顔を赤く染め上げ、怒りで震えるその手で私を殴りたいと思っているようだが、国王の手前なので何とかこらえているようだ。


「話を聞いたところ本来の取引額より安くしようとしたそうですし、それに異を唱えたコールマ商会の連中を簡単に殺そうとしたんですよ、そんな事をしたら二度と取引出来ないじゃないですか、それか他の組織から排除を頼まれた可能性もあります」


「馬鹿な事を言うな、そいつらが自分達で誘拐をしているかも知れないだろ」


 公爵は冷静では無くなったようで辻褄があってない事を言い出した。少し考えれば直ぐに分かるのに、一体どうしたというのだろう。


「ちょっと落ち着きませんか」

「儂は冷静だ。貴様が訳の分からんことを言って、共和国を陥れるからだろうが。帝国の罪をこっちに押し付けるんじゃない」


「あの連中がもし自分達で誘拐が出来るのだったら、わざわざ買う訳ないじゃないですか、その方が儲けがでますからね」」

「うぐっ……」


 この公爵はもっとできる男だと思っていたが、国王に前に立つとその威厳すら何処かに行ってしまったようだ。

 ファーウス子爵も少し様子がおかしかったので国王が何かしらをした可能性があるが、下手に探ると碌な事にならないだろう。


 この場の空気がすべて凍ってしまった様になっているが、その中でもオスカリだけは余裕の表情で話始めた。


「いいですか公爵さん。先程彼が地形の問題と言った事もお忘れなのですか、帝国は海に出るのが難しいんですよ、海に面した殆どの部分は崖になっていますし、簡単に海に出れる場所は帝国が管理している港があります。それに誰であろうと全ての荷は衛兵の立会いの下で検査をしますので不正は難しいですね」


「崖から降りればいいだろうが」

「大人でも苦労する崖を誘拐された子供が登れる訳ないでしょう。それに船はどうするのです? 海に係留していたら見つかってしまいますよ」


 オスカリが雄弁に話し出すが、本当に帝国には港町以外に船を出せる場所が無いのか私には分からない。

 ただあまりにも堂々としているので、公爵も国王も信じている雰囲気がある。


「なぁ公爵よ、儂は何もお前にどうしようとも思わないんだ。ただまだ耳障りな言葉を話すなら貴国は敵国と認定するかもな、その事は各国にも通達はさせてもらう」


 この世界の情勢は完全には知らないが、他国との繋がりはリーボルト王国の方が強いのかも知れない。

 公爵は一気に歳をとってしまった様に思える。 


「申し訳ございません。早急にご期待に沿える回答をお知らせいたしますのでどうか胸の内に納めて下さい」


「儂が満足する答えを言ってきたのならこれ以上は話を大きくしないだろうな、そうでないなら覚悟はするんだな」


 公爵の狼狽ぶりはもしかしたら共和国も子爵のように何かしら絡んでいるのかも知れない。ただ国王は決定的な何かを持っていないから辛うじて公爵がこの場に居る事を許されているように見える。


(せめて私達の船を沈めようとした証拠でもあればもっと面白かったんだけどな)


 すっかりと只の老人にしか見えなくなった公爵は掠れるような声で話し始めた。


「このまま共和国に戻り直ぐに対応いたします。それでここにある賠償金はお預けしてもよろしいでしょうか」

「儂が責任をもって子供達の家庭に配ってやる。それで良いのか」

「はっ有難き幸せ」


 まさか人間側がここまで弱い立場だとは思わなかったが、その原因はやはり国王が何かしらをこの場でしているとしか思えない。

 魔力の流れは特にないように感じているが、それ以外の事は分からないし、数々の私の記憶の中にもそれらしいことは見つからない。


 公爵は項垂れたまま王の間から出て行き、共和国の兵士達も身体を震わせながらその後をついて行った。


(頼むから逆恨みだけはしないでくれよ、まぁ共和国には近づかないようにするけどな)


「さて、英雄君のおかげでかなりスムーズに話が進んだな、そうだっ訓練には君も参加してくれるんだろ」

「えっ訓練何て何も聞いていないのですが」


 急いでオスカリの方に視線を向けるが、オスカリは視線を下げたまま首を少しだけ左右に振った。そしてその口の動きはまるで私に謝っているように見える。


「まぁいいわい、今夜は君達の歓迎会を開くからな、遠慮せずに楽しむんだぞ」


 同じような事をしている共和国と帝国では対応が随分と違っているが、それは表面上だけではなく誠意をもって背後をあぶり出そうと動いた結果だろう。

 共和国もそのように動いていたらあんな対応にはならなかったはずだ。



 ◇



「オスカリさん、訓練って何の事ですか」

「その話は後だ、それよりも大事な話があるんだ」


 真顔のオスカリの視線の先には困惑の表情を浮かべているクヌートの姿があった。




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