第五十六話 謁見
俺の像は日当たりのいい場所に凛々しく立っていて、ちゃんと手入れをされているのか古臭さが全く感じられない。
それに何故かこの周囲だけには柔らかな空気に包まれていて、此処にいるだけで身体が熱くなり涙がとめどなく流れてくる。
「どうかなさいましたか、皆さまは……」
私に声を掛けて来たのは先程の白い毛の獣人族の男性だが、涙を流している姿に戸惑わせてしまったようだ。
「すみません。少し感動してしまいまして」
「そうですか……この像は不思議なんですよ、いつの時代の何者なのか全く分かっていないんです」
「そんな事ってあるんですか」
この俺の像はリーボルト王国の誕生前からこの場所にあった物らしく、初代国王がこの像を気に入って此処に城を築いたんだそうだ。
「不思議な魔法が使われているらしく、劣化する事がないのでそのせいで年代も分からないんです」
「どんな人物か予想もつかないのですか」
「名前だけは分かっているんですよ、足元に昔の文字で【武神インベルガー】と書いてあるのです。それ以外の文字は解読は出来ませんが」
その文字は掠れることなくはっきりと彫られていたがこの国の文字とは違うらしい、私も最初は全く読めなかったが、眺めている内に全てを読み取る事が出来た。
「それでも大事にされているのですね」
「何者か分かりませんがここまでするという事は余程の人物だったのでしょう。彼の国は無くなってしまいましたが獣人族の祖先には変わりがありませんから」
「有難うございます」
「どうしてお礼何て言うのです? 面白いお方だ……さぁ中に入りましょうか」
ゆっくりと王の間に向かって歩きだすが、俺の像は確かに魔法で綺麗になっているかも知れないが、周りには花が咲いているしその周りだけ特別な空間となっている。
あの像を誰が作ったのか分からないが、その者の気持ちやここまで守ってくれた者達の事を考えると再び涙を流してしまいそうだ。
「あの、このまま中に入るのは恥ずかしいのでもう少し心を落ち着けてからでいいですか?」
「分かりました。扉の前にいる兵士に伝えておきますので彼に声を掛けて下さい。中に案内をさせます」
彼が先に中に入った後で、もう一度振り返って俺の像を見始めながらこの国の者達では解読できなかった文章を思い返してみる。
《たった一人で敵地に乗り込んで捕虜を解放し大勝利に導いた男≫
そんな記憶などないので作った男が勝手に入れだけなので恥ずかしい気持ちもよぎって来る。
(まぁそれでも嬉しいな、俺は武神どころか只の中隊長だったんだけどな、あれからどうなったのか知らないが俺が暴れたおかげで捕虜が逃げだせたのだとしたら無駄死にじゃ無かったのかもな)
◇
「ねぇ何してたのよ、もう子供と親御さんの対面は終わったわよ」
「えっまたかよ、ちょっと早く無いか」
「しょうがないでしょ、後にする理由が無いんだから」
確かにこれはショーでは無いので仕方が無いのかも知れないが、やはり残念だ。
「あれっ、クヌートは一人でいるじゃないか、何かあったのか」
他の四人の子供は壁を背にして両親と一緒に幸せそうに立っているが、クヌートは下を向いたまま柱に身体を預けて立っている。
「後でゆっくり話すわよ、可哀そうだったんだから」
壇上では猿型獣人族の男が向かい合わせで立っているファーウス子爵に向かって手に持った用紙を読み上げている。
初めは感謝の言葉で包まれていたが、徐々にその様子が変わって行った。
「…………であるので我が国の宝を奴隷として買おうとしていたのは貴国であることは明白である。当たり前のようだがこれが最初だとは思っていない。貴国は早々に調べ上げてその者達を解放するようにお願いする。もしずさんな報告をする様だったら今後の付き合い方に変化があるのかも知れないと思って欲しい。よろしいか」
「ちょっと待ってください。皇帝に知らせますので答えは待ってもらえますか」
「貴様は何の為に此処にいるんだ? これぐらい約束できなければ意味があるまい。名代として来ているんじゃないのか?」
この王の間の中で一番大きく、3mはありそうな体躯をしたほぼライオンの姿の国王が目をぎらつかせながら言ってきた。
ファーウス子爵はお礼を言われるだけかと思っていたらしく。あからさまに動揺している。
(これぐらい予想できなかったのかな、まさかオスカリもじゃないよな)
さりげなくオスカリを見ると動揺しているファーウス子爵の隣に膝をつき、真っすぐ国王の方に視線を向けて話始めた。
「申し訳ございません国王様、彼には直ぐには答えを出す事が出来ない理由があるのです。私は皇帝から直々に密書を預かっているのでお読みになって頂けますか」
鷹揚に掲げた手紙を王の後ろにいた近衛兵が受け取ってそれを国王に渡すと。国王は封蝋でそれが本物であると確信したようで中身を取り出して読み始めている。
何故だか不明だが、これまでのファーウス子爵とはまるで様子が変わって、ただ下を向きながら口をパクパクさせている。
そしてオスカリはオスカリでその子爵に一瞬だけ視線を動かすと、見てしまった私に悪寒が走る位の残忍な笑顔を見せた。
一体どうなっているんだ。




