第五十五話 公爵の力
後ろにいたムックも気が付いたようで飛び出てきたと思ったら私の頭の上に登って王都を見ているようだ。
前方に見える王都は城壁はそれほどの高さは無いが、その周りには幾重もの堀があり、それにかかる橋は一直線には辿り着かないようにあみだくじのようになっている。
そして見える街並みは木造建築が多く、奥の方には辛うじてパルテノン神殿のような建物があり、それが王城だそうだ。
(何か不思議だ。この王都には初めてくるのに何故か懐かしく感じるのだろう)
◇
「何とも言えない街だな、まぁ中々面白い物が手に入りそうだから楽しみではあるな」
オスカリは王都の風景を楽しむというより、この王都で何が売っているのかが気になって仕方が無いようだ。
その気持ちはよく理解できるし、私自身も気が付いた点がいくつもあるが、また変に勘繰られても嫌なので見て見ぬふりをするしかない。
辿り着いた王城はやはり此処では異質の建物で、その入り口の扉は見上げるだけで首が痛くなってしまう程大きい。
二階を作る概念が無いのか知らないが、まるで巨人族が住んでいるのではないかと思ってしまう。
扉の前には屈強な獣人族の兵士が出迎えてくれているので、威圧感をかなり感じてしまう。
「ねぇねぇ、あんな兵士ばかりだったらさ、共和国の連中も何も言い出せないかもね」
「そうだと良いよな、変な事を言い出して巻き添えになりたくないからな」
此処の車で何故かグシュバッハ共和国の兵士達は大人しかったが、それで終わるとは思っていない。
ただ向こうが何かを言ってきたとしても私は傍観者でいる事を心に決めた。
「ようこそお越しくださいました。それではエマールン帝国の方々とグシュバッハ共和国の方々を早速、国王様の元にご案内いたします」
見た目はゴリラの様ではあるが、全身が白い毛で覆われた兵士が扉から両手を広げながら現れて、厳かに声を張り上げた。
今までは立場が悪くとも権威の差でグシュバッハ共和国の連中が先頭を必ず歩いていたが、今回は呼ばれたのがエマールン帝国の方が先だったのでファーウス子爵が先頭で歩きだした。
「あのさぁもっと後ろに行かない?」
「どうしてだよ、なるべくクヌートの近くにいてあげたいんだけど」
「まだ大丈夫でしょ、それよりさ、あの公爵がどんな顔をして歩いているか見たくない?」
アーリアの性格の悪さに少し呆れるが、それもまた面白いかも知れない。
「行ってみるか」
ムックは私とアーリアの行動には興味が無いらしく、アーリアの頭の上からクヌートの頭の上に移動してしまった。
帝国側の最後尾まで下がって行くと、更に距離を開けてクラメール公爵が歩いているがその顔は全くの無表情でわざと感情を隠しているのが見て取れる。
ただ部下はそれが出来ない様で私が振り返ると私達を睨みつけていた。
「おいっお前は何か文句があるのか、この平民が」
少しムカついたが、アーリアが動き出す前に獣人族の兵士が駆けつけてきたので、私はアーリアを肘で突っついて前を向かせた。
「どうかなされたのですかな、申し訳ないがここは我が王の城なのですぞ、そのような下品な声は出さないで欲しいのだが」
「すまんが平民風情が……」
「我がリーボルト王国にそのような事を持ち込まないで欲しい。それにエマールン帝国の方々はあなた方と違って我が同胞を救って下さった客人なのですぞ、あなた方はその事をお分かりなのか」
この一言で獣人族が帝国と共和国に対する考え方が分かってしまった。そっと振り返ると悔しそうな兵士の顔が見えるので思わずにやけてしまいそうになる。
すると公爵がその会話の中に割って入ってきた。
「私の部下が失礼したね、ただね私達の国では権威が全てなんですよ、お騒がせしたのは申し訳ないが国や種族としての考え方が違うのですから少しだけご理解いただきたい。それにリーボルト王国側が私達を一緒に来るように指定したのではありませんか、こうなる事ぐらいは想定内では無いのですかな」
「そうかも知れませんが同じ人間ではないですか」
「獣人族も一枚岩では無いと思いますがどうなのです? それと同じなんですよ、ただここからは静かにさせますので宜しいでしょうか」
「まぁそれなら……無礼な言い方をして申し訳なかった」
「気になさらないで下さい。友好国ではありませんか」
クラメール公爵はほんの少しだけ話の焦点をずらしてこの場を丸く収めてしまった。やはり共和国の代表としてやって来ただけの人物のようだ。
これ以上この場にいて何かの引き金になるのは嫌なのでアーリアの手を取って前に戻る事にした。
長い直線の廊下を歩くと王の間の前に到着したようでその扉の高さは10mはありそうだ。ゆっくりと開いて行くのを待っていると、横の中庭の中央にある獣人族の剣士の像が目に入った。
「あっあれは……」
私は思わず列を抜け出してその像の元に走り出した。
「ちょっと何をしているんだ、戻って来なさい」
「これだから平民はな」
私を呼ぶ声や悪口も微かに聞こえたが今の私にはそんな声はどうでもいい。
(あの像は間違いなく俺なんだ)




