第五十三話 オスカリの秘密
アーリアは私が苦しんでいる様子を見て、どうやら私に対する怒りは薄まったようだ。
「あのさ、悪いけど共和国の連中を俺の前に集めてくれないかな」
「いやよ、あんな連中は触りたくないんだけど」
「気持ちは分かるんだけどさ、まだ身体が思うように動かないんだよ」
昔の私に中に回復魔法を使える者が他にいれば良かったのだが、その魔法を知っている記憶はリシオだけだとは思わなかった
魔人相手に使った記憶はないどころか、一度も使用した記憶が無いのでやはり魔人には効果の無い魔法なのだろう。
(それなのに覚えているとは魔王とは変な存在だな)
アーリアは文句を言いながらも意識を失っている共和国の連中を引きずりながら一人を俺の前に無造作に置いた。
その様子を見ていた野次馬達もアーリアに協力しているが、此方もアーリアと同じように移動させているのでかなり服は汚れてしまっているが、それぐらいは仕方がない事だろう。
「それでこの連中をどうするつもなの」
「俺と一緒に治すに決まっているだろ、傷さえ治したら問題は無いはずだからな」
「あんたって……まぁいいわ、早くしなさいよ」
リシオの記憶に頼るのは少しだけ抵抗があるが、この身体の痛みを無くすにはそんな事を気にしている場合ではない。
「さてやってみるか、癒しの光よ…………」
文言を唱える度に掌から優しい光が現れ、私を中心に光の幕が張られると身体が暖かくなって徐々に痛みが引いて行く。
そして倒れている共和国の連中も目を覚まし、自分の身体が元に戻っている事を確かめ始めた。
「そんな事も出来たんだ」
「ちょっと思い出しただけだよ、さぁ帰ろうよ」
◇
一人になって部屋の中にいると、どうしてもあの感覚が忘れられないし、未だに使えそうな気がしてならないので裏庭で実験をする事にした。
ただ身体の限界を超えないように注意しながら動かすが、そこまでの動きにはどうやっても出来る事は無いようだ。
(まぁこれが人間の身体の限界だろうな、どうやったらあそこ迄の動きが出来るのか分からないけど反動が凄いからこれで良いのかも知れないな、そうなると勇者みたいに魔力を纏うしか無いのかな……あそこまで魔力を持っていないから無理か……)
「ねぇ何してんのよ、また無茶するつもりなの」
「おっアーリアじゃないか、どうしたんだよこんな所で」
「こそこそ部屋から出て行くからさ、変な店にでも行くのかなって思ったんだよ」
その言葉が正しいとしたらわざわざ後を付けるのは止めて欲しい。もし本当に行っていたとしたらその後はどうするつもりだったのだろうか。
「ちょっと試したい事があったんだよ」
「ふ~ん、昼間のあんたの動きは異常だったもんね」
笑って誤魔化したが、やはりあの動きは異常だったのだろう。そのせいでかなりの代償を支払う羽目になってしまった。
回復魔法を知らなかったらと思うと少しだけ怖くなってきた。
「身体の使い方を変えれば……」
「また一人の世界に入っているよ、ほらっまた今度やりなよ」
今の私は辻本であるからこの頭で考えても身体の使い方など分からない。そもそも格闘技などやった事ないのだから考えるだけ無駄かも知れない。
(まぁまた今度考えれば良いか)
◇
いよいよ王都に向けて最後の行程になり、後数時間で到着するらしい。
「ねぇ昨日の連中は見た?」
「全然分からないよ、近くで見たら分かると思うけど、わざわざ喧嘩を売りに行きたくないからね」
アーリアは昨日の事を許していないようだが、私は騒ぎにはしたくないし、向こうも負けた事など言いたくないはずだからそっとしておいた方が無難だ。
「何かあったのかい。もう馬車に乗りなよ」
「すみませんオスカリさん。直ぐに乗ります」
「昨日の事を気にしているのなら心配しなくても大丈夫さ、そのそもあんな連中を治すなんて君はやはり優しいね」
普通に話してくるが、どんなに思い出しても野次馬の中に人間の姿は無かったはずだ。獣人族だらけのあの場所に人間の姿があったら目立つはずだから間違いはない。
だとするとどうしてオスカリが知っているのか気になるが怖くなりそうなので此処は聞こえなかった事にしようと思う。
「何で知っているのよ、ねぇちょっと怖いんだけど」
(凄いなアーリアは、よく直球で聞けるよな)
「私はね【千里眼】を持っているんだよ、それでたまたま見えたって訳さ」
「ふ~ん、そんな魔法を持っていたんだ。それなら分かるわね」
(おいっそれで納得するなよ、そんな偶然がある訳無いだろ、どうせならもっと聞いてくれよ)
アーリアは納得したのかそれ以上はないも言わず、私はオスカリに誘われて操縦席の隣に座らされた。




