第五十二話 グシュバッハ共和国の貴族達
「さぁ誰から来るんだ。俺が相手をしてやるよ」
(何で勝手に話しているんだ。まるでインベルガーみたいだが……)
「平民風情が、調子に乗りおって」
顔が角ばった男はいかにも一人で向かってきそうなセリフを吐いたが、仲間の三人も見ているだけではなく一緒に殴りかかってきた。
「さぁ身体の限界を引き出すからな」
(これは私に言っているのか、私が私に……)
共和国の貴族達は怒りに身を任せて向かって来ているせいか、その足並みは揃ってはいないので最初に一番早く近づいてきた男を前蹴りでその動きを止め、そのまま回し蹴りをすると一気に二人が倒れる。
(この身体でこんな事が出来るのか)
その次の男には鼻を目掛けて肘を当て、掴み掛って来る男には裏拳で対応する。
「ぐっぱぁ~」
「ごぼっぷ~」
倒れている男達の顔や後頭部を容赦なく踏みつけると、その男達は聞いた事が無いような声をあげ始めた。
「弱いぞ、弱いぞ、立ち上がってくれないとつまらんじゃないか」
(どうして二つの思考があるのか不明だけど、リシオの時とは違うな、乗っ取られているんじゃなくてあの頃に戻ったようでもある)
「このガキが~私等をこんな亜人の国に来させただけでなく、歯向かうと言うのか~」
拳を骨折している男が激昂して怒鳴っているが、こんな場所でそんなセリフを吐いて良いのかどうかさえも理解出来ていないようだ。
それまでは人間同士のいざこざを酒のつまみのようにして見ていた獣人族の方達は今すぐにでも襲ってきそうな雰囲気がある。
そんな周りの様の事を分かっていない馬鹿な貴族は、片手で剣を持って振り回してきているのでなるべく華麗に見えるように避けると野次馬から歓声が上がった。
滅茶苦茶な剣術のせいか剣先が地面に突き刺さったのでその上に足を乗せ持ち上げられないようにした。
「おい貴様、その汚い脚をどかすんだ。下賤の貴様が触れて良い剣じゃないんだぞ」
「それで俺を斬ろうとしたのによく言うよ」
力を込めて引き抜こうとしたので、それに呼吸を合わせて足の力を緩めると思った通りにその勢いで倒れ、後頭部を思いきり地面に打ち付けた。
「情けないな、人間の貴族ってのは口だけなのかよ」
「下賤と呼ぶ奴に負けるお前らは虫けら以下なのか」
野次馬たちは亜人と呼ばれたことに怒っているので、容赦なく倒れている貴族達に馬鹿にした言葉を浴びせ続ける。
ただ唯一、羊型の老人が杖をつきながらその野次馬達をかき分け、血を流している貴族を助け起こそうとしたが、その気持ちは彼には届かなかったようだ。
「余計な真似をするな、魔物に触れられたくないん……」
羊型の優しそうな老人はその言葉が終わらない内にその貴族の口の中に手にしていた杖をつき刺した。
それがきっかけとなったのか、野次馬達は貴族達を蹂躙し始めた。
「馬鹿な事を言うからだな、分かったって頭の中で怒鳴るなよ、はいはいリプレイ」
時間が戻ると同時に意識がある貴族の頭を蹴って全て意識を失わせた。これで誰も馬鹿な事を言い出す者はいない。
「これで良いんだろ……あれっ私か」
いつの間にか思考が一つになり、インベルガーとしての意識が何処かに消えてしまったようだ。
◇
『君はやはり面白いな、今は二重人格になったのかな』
『えっそうなのか、これからもインベルガーが出てくるのか』
『そんな事が分かる訳無いだろ、君みたいな男は初めて見たんだからな』
この身体を私とインベルガーが共有するのかもと思ったが、何故かインベルガーの体術が今の私でも使えそうな気がしている。
もしかして私は俺なのかも知れない。
(どんな結論だよ)
『まぁそのうちに全ての君が融合するかもね、そうしたらその変な感覚は消えるんじゃないかな、その君だったら僕の頼みは簡単に叶えてくれそうだね』
『だから誰助けるんだよ……お~い、お~い。勝手にいなくなるなよな』
(君は何だろうね、少なくとも今の君は辻本でもインベルガーとも言えないんだけど、ちゃんと分かっているのかな)
◇
倒れている男達を見ながら思考が現実に戻ると、いきなり身体に激痛が走ってくる。この感覚は身体中をナイフで切り裂かれているようだ。
「あの、アーリア、ちょっと回復薬を飲ませてくれないかな、もうなにも身体が動かないんだ」
私の言葉が本当だと察知してくれたアーリアが直ぐに駆け付けてくれ、回復薬を飲ませてくれた。
心配そうなアーリアの顔を見ているとこの状況を作ってくれた馬鹿貴族達に感謝したくなった。
(まぁ命を救ってあげたんだけどな)




