第五十一話 失言
『お~い、管理者さんよ、ちょっといいかな』
『何だい、何かがあったようには思えないんだけど』
『そうじゃなくてさ、そろそろ誰を助けたら良いのか教えて欲しいんだよな、ちょっと他の国に行こうかと思っているからさ』
『君の好きにすればいいよ、どうしても無理だったら断っても良いしね』
『えっそれもありなのか』
大抵の場合は無理やりいう事を聞かせるものだとある程度は覚悟していたが、断っても良いとなると気持ち的にかなり楽になる。だったら場所が遠かったらそれだけで断るのもありかも知れない。
『まぁ断ったら君にプレゼントした魔法も、その過剰な魔力も回収するけどね、あっ記憶を全て消してしまうのも良いかも知れないな』
『えっそれってズルく無いか』
『ズルくないさ、面倒だからって断ろうとする君に言われたくはないな、じゃ僕は忙しいから』
『ちょっと話を聞いてくれよ……お~い、お~い』
結局、断る事は出来ないという事が決まったようなものだ。この世界で私から魔力を奪われたらどうやっても自由に生きるなんて夢のまた夢だ。
確実に私には拒否権なんてものは無いようだ。
◇
管理者はそれ以上は何も答えてくれず、いつの間にか馬車は王都に到着する前の最後の街に到着した。
王都に近い街のせいか獣人族の数があからさまに多く、これまでの街にはいなかったタイプの獣人族の姿も見受けられた。
それに街の中には大きな寺院もあり、参拝している者が大勢いたので見に行きたくなったが、獣人族以外は立入禁止となっているそうだ。
「なぁ君は寺院に関心を持つのはいいけど、アーリア君の事はどうするんだい。話は聞いたけど今回は君が悪いと思うな」
「そうですよね、オスカリさんもそう思いますよね」
辻本のままであったら他国で仕事をしようなんて思わなかったので、つい気が大きくなってしまった。ここまで一緒に旅をしてきたのだからもう少し気を使わなければいけないとこの年齢にもなって反省してしまう。
(動揺せずに【リプレイ】をしておけば良かったな、やはり五分じゃ短いよな)
「あのな、クヌート君の事もそうだよ、彼が冒険者として一人前になれると思うかい。いいかい…………」
元の世界ではそれなりに生きていたので、久し振りに他人からの本気の説教を食らってしまった。
今回の事は私の暴走した意見が悪いと言う事は理解しているが、そんな馬鹿に成り下がった私も面白いかも知れない。
ただこれにクヌートは巻き込んではいけない。
「そうですよね、クヌートの事には冒険者は無理がありますね」
「彼が冒険者をやりたいというのなら僕は何も言わないけど、将来の道を相談されてそれは無いよ。彼にはそっちの道と僕の所で働く二つの道を提案しておくよ」
「有難うございます」
「良いよ別に、それよりアーリア君の事は僕は何も出来ないからね」
「そうですよね……」
◇
今、私の目の前には不機嫌を全く隠していないアーリアが座っている。ムックはこの空気を察知して奥に行ってしまっているのでこの空間は二人だけになっている。
無言が続いていたので少しでも空気を変えようと思い街にある食堂に連れ出すと、ようやく少しづつ会話が続くようになった。
「何でお前らが辛気臭せぇ顔して食べてんだよ、全くこっち気持ちにも気を使えって言うんだ」
いきなり絡まれたので誰だか分からなかったが、この街いる人間で敵意を向けてくると言う事はグシュバッハ共和国の連中しかありえない。
彼等が鎧を着ていないから戸惑ってしまった。
「何であんたらに気を使わなくちゃいけないんだ」
「お前が余計な事をするから俺達がコールマ商会の後始末をしなくちゃいけないんだろ」
「知らないわよ、ねぇそんな考えでこの国に来たって言うの? 馬鹿じゃない」
男は立ち上がり、俺では無くアーリアに手を出そうとしたが、既に障壁を張っていたのでその馬鹿な男の左手はもろくも折れてしまった。
「ぐわぁ~いってぇ~、てめぇ~何をしやがった」
「自業自得だろ、女性にそんな力で殴ろうとする何て共和国の騎士は常識が無いのか」
私の言葉に仲間の騎士がテーブルを叩きながら立ち上がり、殺気を私に向けて放ってくる。
魔法を使えば簡単こいつらを殺す事が出来るが、これぐらいの事で殺してしまったらこの世界でも普通に暮らす事は出来ないだろう。
丁度いい魔法が思いつかないのでそうなるとインベルガーの体術を思い出すしかない。
「平民のくせに舐めやがって」
「覚悟は出来ているんだろうな、女連れ……」
(あっそうだ、勇者クレメンテの魔法に身体能力を何倍にも出来る魔法があったな……あれっ何だか上手くいかないぞ、どうしてなんだ)
『俺に任せろよ、おっさんの俺よ』
(えっ誰? もしかしてインベルガーかい? 何で話せるのかな?)




