第五十話 王都に向けて
国王直属の近衛兵が私達をこの港町ゴフリックから王都迄案内をしてくれることになった。
クラメール公爵達の使者団はクヌートの証言と、証拠の品によりこれ以上言い訳をする事はリーボルト王国との関係が悪くなると思ったのか、表面上は大人しくなっている。
ただ、私達というか特に私に対しては酷く冷たい視線を浴びせてくる。
リーボルト王国が使う乗り物は、馬車の馬の代わりに筋骨隆々の牛のような魔獣を利用している。この魔獣ならどんな荒れた道にも対応は出来ると思うが、荷台に乗っている者の気持ちなど完全に置き去りにされている。
クッションの代わりなのか荷台にはほし草が敷き詰められているので私達はまだ乗り心地の悪さを軽減しているが、グシュバッハ共和国の使者団の連中は、獣人族の兵士が止めたにも関わらずそれらを外に投げすて、代わりに船から高級そうな絨毯を持ち出してそれを敷いていたが、そんな物では意味はなさないだろう。
私達は何とかこれに慣れて来たが、二日目となるとグシュバッハ共和国の人達は誰もが顔色が悪く、食事も殆ど取らなくなってしまった。
「クヌート、どうしたんだ。酔ったのか」
「いえ、ただ明日王都に到着するので緊張しているんですよ……僕はどうしたら良いですかね」
『ご主人様、この小僧は何を言っているんですか』
『ちょっとな……』
クヌートは涙を堪えている様だが、適切な慰めの言葉が見つからず、必死で頭の中を回転させている。
「嘘はつかない方が良いだろうな。しかし獣人族の考え方は俺達と違うからそれが本当にクヌートの為になるか分からないんだ。だけどなもし何かが上手くいかなくて村に帰らないのであれば俺達とパーティを組んでも良いんだぞ」
「冒険者ですか」
「生きていくためには仕事をしなきゃいけないだろ、俺が手を貸せるのはそれしかないからな」
これが正解か不明だけど仲間になる事に何の不満は俺には無い。
「ちょっとあんまり余計なこと言わない方がいわよ、この国で冒険者になるのと違うんだからね」
帝国で獣人族が暮らしているのはあまり数がいないのでアーリアはそれを心配しているが俺はその事もちゃんと考えている。
「俺はエマールン帝国には戻らないかもな、他の国なら獣人族の冒険者なんて当たり前のようにいるんじゃないのか」
「そうだけど、あんたは国を捨てるの?」
『ご主人様、その旅の目的はもしかして……」
『そうさ、リシオを探す為でもあるんだ』
『有難うございます』
喜んだムックは身体を押し付けるようにしてくるが、この態度の意味はあまり良く分からない。
まぁ可愛いから許せるけどね。
それよりもリシオが魔国に戻らないで人間の国に存在する事が気になってしまう。
人間が嫌いなはずなのに何を考えているのだろうか。
「ねぇ本気なの」
「そうだね、国に拘らないのも自由かなって。それに俺はいつの日かS級冒険者になって見せたいからね」
(はっきり言うと、これは嘘だけどね)
「ねぇそんな事はE級のあんたが言うセリフじゃないよね、せめてC級、いやB級になりなさいよ」
「アーリアさんの言う通りだと思いますよ、僕の為にそんな無茶をするのは止めて下さい。僕は村八分と言う試練を与えられても受け入れるしか無いんです」
「いいんだよ、俺はね、やりたい事をやりたいんだ。出来ない言い訳を考えるなんてこりごりなんだ」
私がこの世界で生きる目標として自分で考えて自由をつかみ取る事だ。もう昔のように自分で自分の限界を勝手に決めるような事はしたくない。
ただ、そこにクヌートが入って来ると少し違うような気もするが、ずっと一緒にいる訳では無くクヌートが何処かで自分の居場所を見つける手伝いをしたいだけだ。
「あの此処で答えは出せないのですがいいですか」
「そりゃそうさ、もしかしたらクヌートを快く受け入れてくれるかも知れないだろ、俺のこの提案はクヌートには逃げ道があるよって事を知って欲しいだけなんだ」
「ねぇそこに私はいるの?」
「それはアーリアが決めればいいんだ。別に恋人同士でもないんだから」
するといきなりアーリアは私の頬に平手打ちをして他の馬車に乗り込んでしまった。
「そんなに怒らなくても良いと思わないか?」
この馬車の中にいる執事達に同意を求めたが誰もが視線を逸らし答えてくれない。
(もしかしてそうなんだろうな、だけどなぁ私にはアーリアは子供にしか見えないんだよな、それに……)




