第四十八話 不穏な空気
通路の向こうからは、この場では相応しくない銀色の鎧に身を包んだ騎士達に囲まれて、その中央には平服を着ている神経質そう男が歩いている。
「あれがグシュバッハ共和国の使者団だよね、遅れてきた割には偉そうに歩いているね」
「公爵家らしいから偉いんだろ、ファーウス子爵も慌てていたじゃないか」
先頭を歩いている獣人族の兵士は私達の姿を見ると、通路の中心から少しずらして歩くようにしたが、グシュバッハ共和国の者達はそのまま向かってくる。
(なんだか嫌な連中だな、まぁそんな事ぐらいでは怒らないけどな)
私はアーリアの手を取って通路の端を通る事にしたが、すれ違う直前でグシュバッハ共和国の兵士が片手を上げてその行進を止まらせ、私達の進路を塞ぐように立った。
「貴様らはエマールンの者だな、お前らから挨拶をするんじゃないのか」
「何よその言い方は、遅れたにしては随分と偉そうじゃない」
「貴様は平民だろうが」
いきなりその兵士が激昂し始めたので、アーリアを庇うように前に出るといきなり私の頬に衝撃が走り、身体ごと壁に打ち付けられてしまう。
「ちょっと何をなさるんですか、同じ人間族じゃないのですか」
驚いた様子の獣人族の兵士が私を助け起こしながらその兵士に文句を言うが、殴って来た兵士は此方を全く見ようとはしないし、周りの兵士も何も無かったかのように冷たい視線を向けてくる。
するとゆっくりと殴って来た兵士が此方を見て、今度は怒鳴りつけてきた。
「こいつらの嘘で我が共和国は疑われたんだ、いいか我々は弁明に来たに過ぎん。この国とは揉め事は起こしたくないのでわざわざ公爵様がお越しになったんだ」
(そうかい、そうかい、まさかこんなに早く本性を出すとは思わなかったよ、それで公爵が来たって訳ね)
「遅れた理由はそれか、俺達の船が沈めば責任を押し付けられるもんな」
「何だと~」
「はいはいリプレイ」
今度はアーリアが余計な事を言わないように口を塞ぎ、素直に案内を開始した。アーリアは不機嫌になっているがもう一度あの部屋に戻ると、やはり子爵はあの場所を開けていてその席は空席となっていた。
私達は端の席に座るが、公爵は全く臆する事も無くその中央の空席に座り、他の兵士も適当な席に横柄に座り始めた。
◇
私とアーリアは疲れた心を癒す為に海を眺めながら魚の串焼きやら甘いパンを買って昼食とも言えない食事を取っている。
「なんだか疲れたよ」
「そうだね、腹に何かを秘めた国の代表同士だとあんな感じになってしまうんだろうね」
グシュバッハ共和国は私の想像では民主主義の国だと勝手に解釈していたが、新たな首相が誕生し、それからは独裁国家へと変貌をしたようだ。
その首相の実弟であるクラメール公爵は共和国の中でもかなりの権力者となっている。
ファーウス子爵は情けない位にへりくだりながら今回の経緯を説明し、オスカリによってコールマ商会の旗や腐敗しないように特別な処理をした首領の首が入った箱、そして子分たちの身分証と言う事実のみを淡々と報告をした。
グシュバッハ共和国には言い訳が出来そうな証拠を送ってあるが、此処で始めたそれを見せたのはこの国に持ち込まなければいけないからと説明を付け加える。
使者団の兵士の中にはあからさまに苦々しい表情を浮かべた者もいたが、クラメール公爵は一切表情を変えずに黙ってその報告と証拠を見ていた。
それから公爵が発言したのは、此処に到着予定の日にちが大幅に遅れたことだったが、その理由に首相の急病を理由にしてきたので、子爵は嘘だと分かっていながらもお見舞いの言葉を発する事しか出来なかった。
「ねぇここからあの連中と一緒に王都に行くんでしょ、大丈夫かな」
「そうだな、俺達はなるべく近くにはよらなければ良いんじゃないか、あの連中は貴族ばかりらしいしな」
「だろうね、あんな鎧なんて意味無いのにね」
道中に戦いが起こるとすれば魔獣相手なので弓矢や魔法対策のあのような鎧はかえって邪魔になる。
戦争でなら鎧は有効かも知れないが、それすら分かっていない向こうの使者団はそれだけで厄介者だと判断が出来る。
それにグシュバッハ共和国は貴族と平民格差が激しいらしいので私やアーリアは絶対に近くに行かない方が無難だ、
まぁ何があったとしても【リプレイ】があればなんとかなりそうだが。
◇
『ご主人様……あのシューヤ様、よろしいでしょうか』
『あぁ大丈夫だけど、今まで何処に行っていたんだ? アーリアも心配しているんだぞ』
『それは申し訳ございません。ただ折り入って話したい事があるのですがよろしいでしょうか』
『勿論良いに決まっているだろ』
話方は丁寧だが、わざわざご主人様からシューヤ様と言い直すという事は、ムックは私に秘密に気が付いたのかも知れない。




