第五話 今度こそ
んっ此処は何処だ。それに何だか視界がぼやけているぞ。それにこの身体の私(?)の意識が感じられない。
「おぎゃ~おぎゃ~」
えっまさかと思うけど赤ちゃんじゃないよな。
『まさかこんなに早く記憶を取り戻すとはね、今回の身体は相性が良いようで良かったよ。やはり辻本に近い身体の方が良かったんだな。あっそうそう、約束通り特別な魔法を使えるようにはしたんだけどさ、使いこなすには今の内から魔力を上げとかないと駄目だからね』
どうやってだよ……ふ~ん、意外と簡単なんだな、それでどんな魔法が使えるんだ。
……【リプレイ】って言うのか。
……最大で五分だけ巻き戻しって、短く無いか。
……連続で使う事は出来ないと。すると、限られるな。
……使用した時間まで進めばまた使えるのか。
……何度でもやり直しが出来ると。ふ~ん。
『どうしたどうした。もっと喜んでくれよな。いい魔法なのにな』
いや、使い方を考えているだけださ、ちょっと引っかかるのが意外と地味だって事ぐらいかな、だってさ魔王の時は派手な魔法が多かったし、勇者だって専用魔法を持っていたからね。
『その身体の魔力じゃ使える訳無いだろ、まぁ将来は分からないけどね、それよりそんなに文句を言うなら返して貰おうかな』
悪かったって、有難く使用させて貰うよ。
『条件は忘れていないよね、いつか僕が教える人物を助けてやって欲しいんだ』
人殺しとかじゃなかったらいいよ、まぁその時まで私が生きていたらな。さて練習をやってみますか。
◇
「んっあ~あ~」
えっちょっと眠っていただけなのに視界がはっきりしているぞ、それに何だか身体に力が入る様な……歩けるじゃないか。まさか時間が飛んでいるのか。
「フレちゃん、何処に行くのかな、歩けるようになったばかりなんだからね」
私を優しく見つめるこの女性は誰なんだろう。火のような赤い髪がとても綺麗だな。華奢な身体がまたその美貌を美しく見せている。
「いいやフレイクにはもっと歩いて貰わないといけないな、この子は立派な狩人に成長して欲しいんだ」
四角い顔で武骨そうなこの男はもしかして父親なのか、そうなるとあの人が母親か、よくもまぁ不釣り合いな夫婦だな。
まぁ幸せそうだから良いか……それより、まだ小さい内に練習しないと魔力が増えないっていていたからな。
バレないように練習、練習。
◇
「んっ此処は」
「静かにしろ、獲物が逃げるじゃないか」
えっこの状況は何だ。そしてこの身体は……。
おいおい、いつの間にか私(僕)は八歳になっているとはな。えっ母親は去年死んでいるじゃないか。どうしてだ……駄目だまだ混乱しているせいか詳しく思い出せない。
「よしっ仕留めたぞ、フレイク取って来い」
「はい、お父様」
何だよ、お父様って口から出たぞ、私(僕)はただの狩人の息子だろ、それなのに何て呼び方をしているんだ。
矢によって仕留められている鳥の血抜きをしているが、辻本としての私には目をそむけてしまったに違い無いが、何故か感情も無く処理をしている。
フレイクとしての感情なのか、それとも今迄の私達のおかげなのかは分からない。
仕留めた獲物を食べながら身体の中にある魔力を探ると、やはりこの身体の魔力は魔王や勇者の時に比べると酷い物だ。
私としては魔力を上げる練習を直ぐにでも始めたいが、ただそれをしてしまったら、私の意識は眠りにつき僕はその練習をしないだろう。
どうすればいいかな、このままで……駄目だな、魔力が少なすぎる。
あっ字が書けるじゃないか、そうか母親のおかげだな。私としては殆ど会った事のない母親だけど、少しだけ胸が苦しくなったようでもあり暖かくなったような気もする。
さてやり方を書いておくか、床にも壁にも書いてやる。
ただ身体の中にある魔力を使い切ればいいんだからな、もしかしたら苦しいのかも知れないが頼んだぞ僕よ。
◇
「ぼさっとするな、もうすぐ鹿の群れが通過するぞ」
また狩りの時かよ、え~っと、私(僕)は十四歳か、狩りの腕前は……そこそこじゃないか。
私(僕)の記憶を探れば探る程、全てにおいてそこそこでしか無い。
私(辻本)に一番似ているな、育った環境は違うけど違和感が余りないのは不思議だ。フレイクなら同じ魂だと本当に理解出来るよ。
魔力は……これはどう評価したら良いんだろうか悩んでしまう。昔に比べたら遥かに上がっているが、勇者や魔王には比べ物にならない。
「集中するんだ。狙いを定めて撃つんだぞ」
目にかかる前髪を息で吹き飛ばし、弦を引き絞って身体を固定する。深く長い息を吐きながら辻本とフレイクが同化するように心を落ち着けて、その指を放した…………駄目だね。
「さぁやってみますか、初リプレイ」
上手くいたようなので、邪念を振り払い、集中して…………駄目だね、次もその次も駄目だね。
あ~勇者だったらな、勇者の時の武器はマジックアイテムの弓だったし、それに魔法……んっ何か使えそうだぞ……リプレイ。
何故だか知らないが身体の中に勇者の面影を感じる。同じように狩りをしていた子供時代のように矢に風魔法を纏わせ矢を射った。
同じように鹿とは別の方角に進んで行くが、風魔法によって大きな弧を描きながら鹿の心臓に突き刺さった。
「お前、どうしてそんな事が出来るんだ」
「どうしてでしょう」
それよりも風魔法を使った時は魔力が減っていくのを感じたが、【リプレイ】の時は全くそれを感じない。