第四十三話 水竜との決着
今度も海に飛び込むが、バルドゥルの意識の時のように潜る様な馬鹿な真似はしない。そもそも人間が海の中で普通に動けることが理解出来ないあいつにはもう身体を自由にさせたくはない。
「ねぇ何遊んでんのよ」
上から呆れたようにアーリアが声を掛けてくるが説明している時間はない。
「さて、やりますか。お前は力を貸してくれるだけでいいんだよ」
魔力を上半身に流して両手を前に伸ばすと先頭の船の下に水の固まりが出来始めた。
バボォーン。
何も無いと信じている水竜はいつものように下から上がってきたのだが、今回は水の壁に阻まれ頭を強く打ち付けたようだ。
(さぁどうでるのかな)
水面に顔を付けると、下の方で水竜が旋回して、怒りに燃えた赤い目を私の方に向けている。
「ちょっと上がって来なさいよ」
「何をしているんだい」
「下に水竜がいるんだよ、少し静かにして」
顔を上げてしまったのでもう一度下を見ると、水竜は船の倍ほどもある体をばねのように縮め始めた。
(嫌な攻撃をしてきそうだな、さてバルドゥルの技を使ってみるか)
今度は身体全身を魔力で包み、大きく息を吸いこんで身体を真っすぐにすると足から沈んで行く。
上からは何やら叫んでいる声が聞こえるが、答える気は全くない。
胸の前で手を合わせると身体の周りに渦が出来始めたが、そんなのを全く気にしない水竜は大きな口を上げながら一気に浮上してきた。
渦の先端に水竜の牙が触れると渦は私の身体から離れて今度は水竜を包み込んで行く。
拳を下から突き上げるように動かすと、渦に包まれた水流はその身体を海上に持ち上げていく。
(えっあ~そうなるのかよ)
俺の横を水竜が登って行くときに、先程は私の身体には影響が無かった渦が、今度は俺の身体を巻き込みながら水上に出て、この身体を船体に向かって弾き飛ばした。
「がはっ、俺の魔法で何で自滅するんだよ」
口の中から血を吐き出しながら見上げると、水柱に様になった渦の中に水竜が激しく身体を回転させている。
船の上の声から察するとかなりパニックになっているようなので、あの水柱は水竜自身が出しているのだと勘違いしているようだ。
バシャーン、
「馬鹿なことしてるからよ、早く掴まってよ、逃げなきゃ」
「大丈夫だよ、奴はあそこから逃げられないと思うよ」
「えっあれはあんたの仕業なの」
結構身体の骨が折れているのだが、そんな事を分かっていないアーリアは強く私の身体を抱き締め船に近づこうとしている。
余りの痛さに文句を言いたくなったが、水竜が攻撃をしてくると思っているのに海に飛び込んでくれたアーリアにそんな事は言える訳がない。
(あれっあれじゃダメなのか)
本当だったらあの渦の中で身体がバラバラになるはずなのだが、段々と水竜の回転が遅くなり、渦自体もその大きさが小さくなってきた。
(そうだよな、水竜も魔力があるもんな、私の魔力では同じような水属性は駄目だって事か……だったらこれか)
あまりやりたくはなかったが、水竜に向けて大きく口を上げると黒くて小さな玉がゆっくりと浮かんで行く。
「今、何したのよ」
「それよりさ、俺を放してここから離れた方が良いよ、もう渦が消えちゃうからね」
「あんたはその身体で泳げないんでしょ、放せる訳ないじゃない」
(あいつが落ちてくる前に出来るかな? まぁ失敗したら戻れば良いか)
渦の柱ではなく、単なる水柱に戻てしまってので水竜がそこから顔だけを外に出し口を大きく開けた。
顔を此方の方に向け、口の中は青白く光り始める。
「おいっブレスが来るぞ、早く逃げるんだ」
「間に合う訳ないじゃないですか」
船の上は大騒ぎになっているが俺にはあれを見届ける事に決めている。失敗したらまた戻って別の作戦を考えるだけだ。
小さな黒い玉がようやく水竜の顔の側に行くと、水竜の口から今にも放たれそうなブレスを吸いこんで行く。そして次には顔からどんどん吸い込まれて行った。
(俺の魔力は持つのかな? 想像以上に減っていくんだけど)
「どうなってんの」
「儂の魔法じゃよ」
「何その話し方、気持ち悪いんだけど」
「…………」
もう顔を吸いこんだので魔法を解除したいが、私の身体はそれを許さず魔力が無くなりそうなのに解除しようともしない。
(何でリシオが出てくるんだよ、お前の記憶だけを覚えているんじゃないのか)
『貴様が儂だけの魔法を使うから蘇ったんじゃよ、今度は儂がお前の身体を乗っ取ってやるわい』
(えっどうしてそんな事が出来るんだ)
『貴様に出来て儂が出来ない訳ないじゃろうが、儂は魔王なんだぞ、これからこの身体で人間どもを苦しめてやるわい』
(そんな事、リプ……)
記憶が薄れていく中で目に写ったのは、水竜の身体が【重力玉】に殆どのみ込まれて行く場面だった。




