第四十話 クヌートは悩む
港町エライサまでの道のりは退屈と思えるほど暇でしか無いが、護衛をしている騎馬隊の士気は高く気を抜いている者は一人もいない。
それは良いのだが、安全を求めすぎているのか進行速度が遅く、だったらもっと長く進み続けてくれれば良いのだが、夕方になる前に街に入り宿に入ってしまう。
オスカリの粋な計らいで誰もが一流の宿に泊まる事が出来ているが、三日目ともなると宿の豪華さなどどうでもよくなった。
「こんなんじゃ何時まで経ってもエライサに着かないわよ、どうにかなんないのかな」
「無理みたいだな、この行程を決めたのはファーウス子爵だからね」
いちいち街や村に寄るのは帝国の思惑の為であり、無理をしない理由はファーウス子爵が旅を楽しみたいからだ。
相変わらず獣人族の子供達を理由にしているが、何処の世界も善意だけでは動かないと言う事だろう。
◇
「すみません、シューヤ様の部屋でしょうか」
いつものように宿に入って休んでいると、いつもならアーリアによっていきなり扉を開けられてしまうが、やはりそれはこの世界の常識ではなくて今はちゃんとノックの音が聞こえてきた。
「あぁそうだけど、誰なんだ」
「クヌートです。入っても良いですか」
「良いよ、入って来なよ」
獣人族の子供で一番年齢が高いクヌートが周囲を気にしながら部屋の中に入ってきた。他の子供達は大分この状況に慣れ始めて来たが、クヌートだけは何故かふさぎ込むようになった来たので俺もアーリアも密かに心配はしていた。
「どうしたのよ、ようやく話す気になったのかな」
「アーリアさんもいたんですね、丁度良かった……あの、僕もこの国の冒険者になりたいんですけど」
「いきなりどうしたんだ。君は国に帰りたくないのか」
その答えは予想外だったが、かなり思い詰めたような表情で話してくれているので、これからの会話は慎重に進めなくてはいけない。
「帰りたい気持ちはありますよ、ただ僕には帰る資格が無いんです」
クヌートは攫われる時にあまり抵抗はしなかったが、親友だった男は他の子供を守るために立ち向かい、そして短い人生を終わらせた。
「君は命が助かったんだから良いじゃないか」
「僕の親友は族長の息子何ですよ、あいつが死んだというのに、僕だけが帰っていい訳がありません。それにあいつは戦って死ぬことが出来たけど、僕はその姿をただ見ていただけなんです」
まだ子供なのだから身体が動かなくても仕方のないように思えるが、クヌートの里は<森の守護神>と呼ばれているので戦いもしない行動は悪とされている。
もしかしたら両親もクヌートの事を許さない可能性があるそうだ。
「ねぇ攫った男達は一人や二人じゃないんでしょ」
「数じゃないんです。それに言い難いですが人間相手に降参する事も認められていません」
このクヌートの言葉で今迄は一方的に人間が悪いと思っていたが、獣人族側も似たような悪感情を持っている事を知った。
だからと言ってどちらが悪いとは決められない。どちらの国にも言い分があると思うからだ。
(族長の息子か、それに何で戦いに拘るんだ、いまいち……私には俺がいるじゃないか)
獣人族の気持ちを知るにはインベルガーの記憶を覗いてみるしかない。普段の生活を思い出す事は殆ど無いが、朧気ながら獣人族の考え方を理解してきた。
「あのな、だからと言って逃げ出したら後悔するぞ、どうなるかは分からないが族長に君の親友の最後の姿を言うのが君の役目じゃないかな、それでどうにかなる様だったら何時でも相談に乗らせて貰うよ」
私の出来る事はたかが知れているし、もしかしたらオスカリに頼る事になってしまうかも知れないが、そうなったとしたらクヌートの為に頭を下げよう。
私の中にはプライド何てものはそれこそ幻想でしか無いのだからそんな事を恥とも思わない。
特に他人の為に頭を下げるなんて俺はそれこそ自分を褒める事が出来る。
「有難うございます……」
暗い表情のままクヌートはこの部屋を出て行ったが、落ち込んでいるのでは無くてこれからの事を真剣に考えている表情だと俺は思いたい。
ただ、隣にいるアーリアはそうは思っていない様だ。
「獣人族は誇りで生きている種族なんだよ、本当にそれでいいのかな」
「分からないよ、ただ族長が他の奴から息子の最後の話を聞くよりかは良いんじゃないか、その結果がどうなるのか分からないけど、後の事は出来るだけ助けてあげようよ」
こんな風にこの私が考えられるとは思わなかった。
本当に私は辻本修也なのだろうか。
辻本として生きていた世界でこのように部下にもしてあげれたらもっとましだったかも知れない。




