その五 リシオは呆れる
全ての魔狼を元の場所に帰すと、疲れて眠っているあの子供を背負いながら空に向かって指を差した。
「もう少し人間の事を知らんといかんな、この街は失敗じゃ……メギド」
ほんの先程まで晴天が広がっていたが、今では空が赤く染まり人の何倍にもある赤黒く燃えた岩が降り注いでくる。
それらは全ての建物を壊しながら焼き尽くし、そしてこの街を溶岩の湖へと変えていった。
リシオによって助けられた者もまだこの中には少なくない数の人間がいたが、この街の中にいて助かるのはリシオとその少年だけだ。
(少々やり過ぎたかの、まぁそれでも良いか、どうせ人間なんて何処にでもいるからな。この経験を次に生かせればそれで充分だろう)
街を埋め尽くしている溶岩なのだが、城壁には影響はなく街の外に被害が広がる事も無かった。
ただその光景は街の外に避難していた人々は泣きながら失われて行く街をただ見ていた。
「一体何が起こったんだ」
「分からないけど、これでは中にいた人たちはもう……」
「おいっ街から人が出てきたぞ」
「この状況で良く生き残れたな」
リシオを発見したグループは両手を振ってリシオ達を呼んでいるので、リシオはよっくりとそちらに向かって行く。
「よくあんな状態の街から出て来れたな」
「飲み込まれる前だったからな」
「あんた達は本当に運が良いよ」
(この連中を傀儡にしてしまうか……それだと面白みに欠けるか)
歩きながらこの先の事を考えていて、一番面白い答えを探している。
「おいっ君達はもう少し街から……勇者様ではありませんか。先程は助けていただいて有難うございます。しかしこの街がこんなことになるなんて」
その兵士は小綺麗な鎧をきているので、リシオに助けられたという事はあっという間に戦線離脱したとしか思えない。
「悲観しても何も変わらんだろう。受け入れるしか無いのではないか」
「それでも街をこの状況に追い込んだ連中をどうにかしたい」
(そうなると儂を倒したいのかの、まぁその程度の腕前では傷一つ儂にはあら得られんわ)
「先ずは市民の安全が先じゃないのかね、俺は見回りに行ってくるからこの子を頼んだぞ」
「分かりました。その間は私達はどうしたら良いのでしょう」
「生き残った者を集めて近くに街に避難すればいいだろ」
兵士が魔王の私に質問してきた事に驚いてしまうが、儂が答える代わりに近くの兵士を傀儡に変えた。
「みんな聞いてくれ、いまから隣街に避難しようではないか、生きている者を此処に集めて出発するぞ」
「何を勝手に仕切ってるんだよお前は、新兵なんだから勝手な事を言うな」
まだ人間を正確に見極める事が出来ないリシオはミゲルと言う新兵の傀儡を解除した。
リシオがミゲルの心を縛っていた闇を解除すると、ミゲルは直ぐに自分を取り戻したがどうしていきなり怒鳴られているのか意味が分かっていない。
リシオに助けられた者達がリシオを発見してこの場所に集まり始めたので、リシオを知らない者もその人込みに惹かれるように集まってきた。
そのせいかリシオはこの場から一人になるタイミングを見失ってしまった。
新兵もそれを怒鳴った兵士もこの場をどうしていいのか分からず、生き残っている士官を探したが、生き残りの中にはこの場を仕切れる士官はいなかった。
(参ったな、思わず街を滅ぼしてしまったがあの領主だけで良かったんじゃなかろうか、思わず儂の身体を乗っ取られた時の記憶に従い同じような事をしてしまったわい)
「……あの、勇者様。勇者様がこの場を仕切っては貰えないでしょうか」
思わずリシオは勇者と言われたことに怒鳴りつけたくなったが、今後の事を考えるとこの展開は面白い事になりそうだと考え、記憶の中にある笑顔を真似しながら優しく答え始めた。
「最初に君の名前を教えてくれないか」
「はい、私はレクソル=オバールと申しまして子爵家の三男であります。この場にいる兵士の中には士官がいないのですが私が貴族ですので此処にいる兵士の代表になります」
「そうか、ならば君が生き残った者達を引き連れて隣町に言ってくれないか、私は本当にあの連中がいなくなったのか調べたいんだ」
これでもっといい人間とやらの行動だと思ったが、レクソルや他の市民はどうやらそうは捉えていないようだ。
近くにいる老婆がレクソルを気にしながらリシオの袖を引っ張った。
「申し訳ないがの、お主が我々を隣街まで連れて行ってくれんか? 此処にいる兵士さん達はまだ若いから心配なんじゃよ」
兵士が役に立たないと言われているのだが、それを聞いているレクソルは怒るどころか頷いている。
「レクソル君、レ・ク・ソ・ル・君、聞こえているだろ、君はどう思うんだ」
「あの、生き残った兵士達だけでは三百人以上もいる市民を安全に連れて行けそうもありません。何せ兵士は十八人しかいないのですから、出来れば勇者様にも一緒に来て頂きたいのですが」
プライドの欠片の無い言葉にリシオは呆れかえってしまうし、ここまで人間が愚かだとは思わなかったのでもっと早く攻め滅ぼせば良かったのかと少し後悔してしまった。
「少しだけ調べてくるから此処で待っているんだ、そうしたら一緒に行こうではないか」
「有難うございます」
リシオはまだこの先の事を決めかねていたが、背中の子供が目を覚ました時にリシオの行動は一つしか無かった。




