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第三十九話 出発式

 街を出る前にオスカリに近づいて私が目にした連中の事を告げると、思いもよらぬ反応が返ってきた。


「よく見ているね、だけど心配はしなくても大丈夫だよ、その連中はね、領主様の近衛兵がしっかりとマークしているはずさ、直ぐに何かが起きる訳じゃないけど今までのような待遇はなくなるだろうね」

「えっどういう事ですか」


 馬からオスカリに隣に座ると、もの凄く楽しそうな顔をしたオスカリが小さな声で話してくれた。


 実はこの出発式には全兵士と貴族の当主は強制で見送る事が決められており、会場の中では市民に化けた近衛兵が誰が悪感情を抱いているか調べているのだそうだ。


「子供達はエサですか」

「まぁこれも今後の為には必要な事だよ、それにちゃんとした意図が明確だからね、これからはこの国にも獣人族の者達が住む可能性がある。それなのに古い考えを持つような輩は邪魔な存在だろ、市民間で問題が起きるのよりも先に先ずは支配層をちゃんとしないといけないんだ。ちなみにこれは行く先々の街でも同じようなことがあるよ。全ては宰相の指示の元にな」


 宰相が命令を出すという事は、帝国は今回の事を最大限に利用するつもりなのだろう。まぁその代わりに護衛団だけではなくて見えない場所にも兵士は配備されているはずだから安全な旅路となるのだろう。


「帝国はリーボルト王国と本気で仲良くしたいんですね」

「まぁそうだろうな、魔国の動きがきな臭いから少しでも仲間と言える国が必要なんだよ、向こうもそのつもりじゃないか」


 ただの商会のオスカリが、帝国とどのような交渉をしたのかはこれ以上は知らない方が良い。

下手に動いて巻き込まれるのはゴメンだ。


 私とアーリアは道中は指定された配置場所はなく自由にしていいようになっている。騎馬隊はちゃんと整列されているが敵が来ない事を確信しているのか緊張感はあまりないように見える。


「どうして街道には私達しかいないんだろうね」

「通過するまでは通行禁止にしているんじゃないか、この子達は安全に送り返さなくてはいけないからな」


「…………けっ亜人のくせによ」


 何処からかその声が聞こえて食たような気もするが、その言葉は街で見た悪意のせいだと思いたい。

 この中にはそんな馬鹿な連中はいないと思う。


『ご主人様聞こえましたか? 今呟いたのはあいつですよ』


 アーリアの頭の上に乗っているムックがその小さな前足で近くにいる兵士を指している。


『気のせいじゃ無かったか、何でそこまで嫌うのかな』

『人間が獣人族より劣っているから劣等感があるんでしょうな』

『そうなのか』

『あくまでも肉体の力だけですけどね、文化は人間の方が上じゃないですか、まぁ私にはどうでもいいんですが』


 私としてはあの兵士が護衛に必要だとしても、また呟くようならそれなりの事をさせてもらう。


 ただアーリアにも聞こえてしまったようで先程から周囲を見回しているが、揉め事にならないように犯人を教えるのは止めよう。


「ねぇ聞こえたよね」

「ちょっとね、まぁ相手にしない方がいいよ」


 横目でその兵士を見ると子供達が乗っている馬車の方を見て何かをまだ呟いているので、もう見逃す事は出来ない。

 彼にはここから退場してもらった方がいい。


「ちょっと行ってくるな」

「なぁ何処に行くの?」

「大袈裟な事はやらないけどちょっとだけな」


 私の中のインベルガーも起こっているらしく、先程の兵士を殴りたくなってきたがその感情を必死に押さえつけた。


 それならばだれにも分からないようにあの兵士にはここから出て行って貰うしか無い。


「うぉ~~ん、ブルッブルッ」


 あの兵士が乗っている馬だけに聞こえるように太古の獣人族の言葉を放った。私にはその意味は分からないが自然と声に出てしまう。


 するとその兵士の馬だけが暴れ出し、騎馬隊の隊列を乱していく。そしてそれに釣られた他の馬たちも暴れ始めた。


「ムスカ何をやっているんだ。騎馬兵なのだからしっかり押さえていろ」

「すみません。先程からやってはいるのですが、どうも言う事を聞いてくれません」


 ムスカは必死に乗りこなそうとするが馬は相変わらず暴れるのを止めない。

 近くにいた兵士がみかねてムスカの手綱を奪うと直ぐにその馬は大人しくなっていく。


 その兵士と馬を交換したがまたしても獣人語でその馬に話し掛けると、同じように暴れてくれる。

 馬を制御できないムスカに対し、とうとう騎馬隊の隊長の逆鱗に触れてムスカはお役御免となった。


 これでもう邪魔な奴はいないだろうな。




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