第三十八話 出発
何だかこんなにも話が大きくなるとは思ってもみなかったので、ここまでくると俺は必要が無いのではないかと思えてしまう。
最初の予定ではお金を持っているオスカリに協力をして貰って子供達を国に返せればよかった。
そのオスカリ側のメリットとしてオスカリの商会がリーボルト王国と関係が気づければいいなと軽く考えていただけだ。
それなのに見たことも子爵や帝国だけではなく隣国のグシュバッハ共和国まで絡んでくることになった。
帝国としては獣人族の子供などどうでもいいと思っていたが、この話が大きくなるとそう言う訳にはいかなくなるし、誘拐犯が自国の者だとただ返せば終わりという訳にはいかない。
司令本部からアズリ司令官に命令が下り、コールマ商会を詳しく調査したところ、その者達は隣国の盗賊団の別称であることが判明した。
まだ残っていた死体や残留物をグシュバッハ共和国に持ち込むと、その商会の者達が自国民であると認めた国王はお詫びに品をリーボルト王国に運ぶことになった。
ただ買い手側の存在を調べる事はせず、それ以上の事で疑問を抱かないようにとオスカリは真顔で言ってきた。
言われなくともそれなりに想像がつくのでそこまでは関わり合いたくはない。このままでは終わらないと思うがそれに巻き込まれるのはごめんだ。
子供達だが既にルカメヤ商会がちゃんとした宿を借りてそこで休ませている。もう他の商会がこの事を嗅ぎつけても手を出させないためだ。
◇
オスカリに相談したあの日からほぼ一ヶ月が過ぎてようやく子供達を国に返す日程が固まった。
目的地はリーボルト王国の王都で、こちらとほぼ同時にグシュバッハ共和国の使者団も到着する事になっている。
そしてこの大部隊の編成もようやく決まった。
オスカリ率いる商会の幹部候補生が五人の計六人。
ファーウス子爵と領主直属の憲兵が五人の計六人。
帝国軍から騎馬隊が十五人。
子供達の十八人。
世話や雑用として執事が十人。
そして俺とアーリアとムックだ。
この中には船員は含まれていない。
馬車が七台ととても大袈裟な事になっているし、この事が瓦版や各所で発表されてしまっているので俺とアーリアは出発前から憂鬱な気持ちになってきた。
「もうさ、私達は要らないよね、行きたくなくなったんだけど」
「俺もだけど無理だろうな、救出したとこの事を話さなくちゃいけないだろうし」
「誰かが代わりに言えば良いんじゃないの」
「それは可能かも知れないけどさ、純粋に子供達を国に返そうとしているのは俺達だけなんだ。そうなると行くしか無いだろ」
「そうね、もう諦めるか」
◇
出発の日には楽器団の演奏が俺達の背中を押してくれた。
先頭の馬車にはこの隊の隊長としてファーウス子爵が乗り込み、馬車から民衆に手を振っている。
二番目の馬車にはオスカリが自分で操縦をしながら手を振っている。
俺とアーリアはこの場所は嫌だと言ったのだが、先頭の馬車よりも前で二人と一匹で馬に乗っている。
「ねぇ完全にさらし者よね、この扱いは酷いんじゃないの」
「その分の報酬が上乗せされているんだから文句は言えないだろ」
「そうだけどさ……」
俺の横にいるアーリアはなるべく見学者の方を見ないようにしていたが、その外見だけを見れば一番綺麗なアーリアは男達の視線を全て独り占めしているように見える。
『ご主人様、敵意を向けている馬鹿な人間がおりますが、どうしましょうか? 殺しますか?」
『止めてくれよ、俺がアーリアと一緒の馬に乗っているから焼きもちを焼いているんだよ』
何故だか知らないがアーリアの腰に手を回していると元の世界での娘を思い出してしまった。
娘は何も言わず妻と一緒に出て行ってしまったけれども、今頃は何をしているのだろうか、私の事を少しは思い出す時があるのだろうか。
『あの、敵意が向けられているのはご主人様だけではなく、子供達にもむけられていますね、どうします? やりますか」
『止めなよ、どうせ何も出来ない馬鹿な連中に決まっているさ』
ムックにはそう言ったが、気になり始めたので見物客に視線を向けると、おざなりの拍手をしている連中が目に付くようになった。
この時はよく分かっていなかったが、全ての人間がリーボルト王国との国交回復を喜んでいる訳じゃなかった。
この中には獣人族の奴隷を持っている者もいるらしいので、その者達はいつかは奴隷を解放しなければならないと考え、俺達が余計な事をしているとしか思っていないはずだ。
そいつらをどうにかするのは俺の役目ではないから、オスカリには教えておこうと思う。この情報をどう使うかはオスカリ次第だ。




