第三十六話 オスカリ再び
応接室に案内され、そこで待っていると直ぐに笑みを浮かべたオスカリが中に入ってきた。
「まさかもう君達と会う事になるとはね、それに何か面白い話を持って来たそうじゃないか」
ここから何度かリプレイを使用して交渉を進めないといけなくなるので、全てのパターンを覚えないといけない。
いつも以上に集中し、気持ちを落ち着けながら話し出す。
「まず、この国はリーボルト王国と国交が始まったばかりですよね」
「そうだね、ずっといざこざか続いていたんだけど……それは常識だろ」
「すみません、田舎の僕には獣人族とのいざこざには現実味がないんですよ」
「ふ~ん、そんなものかね」
まだ掴みの段階だと言うのに、そんな些細な事は流して欲しい。
「それでですね、向こうの国との貿易はどうなっていますか」
「そうだね……」
やはりそれは私の想像通りだった。兵士の態度を見れば完全に水に流しきれてはいなく、何も始まっていないに過ぎなかった。
向こうの国との間にどんな貿易が出来るのかはまだ知らないけれど、これだったら交渉の余地はある。
「俺の話はですね……」
獣人族の子供を助けた話をすると、最初は普通に聞いていたが話が進んで行くうちに気が付いてくれたようだ。まぁ遠回りに話したので言葉を何度か変えるはめにはなってしまったが。
「言い方は悪いが、子供をダシに使うと言うんだな」
「褒められたやり方では無いと思いますが、いいきっかけになると思いますよ」
「そう上手くいくかな」
リーボルト王国が連れて来た事を重視するより誘拐を重視したら聞く耳は持たない可能性がある。
それにこの国であるエマールン帝国を無視してしまって良いのかという事だ。
「それは勿論分かっています。ですから今回の事で全てが始まるとは思いません」
「だったら意味無いだろ。船を出すのも安く無いんだぜ」
「そうかも知れませんが、先ずは顔を売りませんか。いきなり貿易の話をするのではなく、送り届けたのが帝国のオスカリ商会だと言う事を広めましょう」
ここがいくら大きな商会でもオスカリでなかったら難しいと思うが、男爵の地位を持っているのだから帝国の顔を潰すような事も少しは誤魔化せるだろう。
「ねぇねぇ、顔を売ってどうするのよ」
「静かにしてて、後で話すからさ」
アーリアは私の態度に不満があるようでその長い脚を組んで腕を組み始めた。
目の前の男は商会のオーナーだけでなく貴族でもあるのだからその態度を見せるとオスカリは怒りだすかと思ったが、どうやらオスカリは考え事に夢中になっている。
「そうなると救出したのが君達で保護をするのが私達か……それでどこまで行くつもりなんだい」
「出来る事なら王都に連れて行ってそこで引き渡しをしたいと考えています」
「まぁそうだよな、向こうの港で渡してしまったらそこで終わってしまうもんな」
私には子供達を安全に国に戻す財力はないので、金を持っているであろうオスカリの頼るしか無いが、彼は商人なのでそれなりの見返りが必要だと思っている。
ただ私が考えたことは全ては空想の中の事で実際はどうなるのか不明だ。
特に私には直情的な獣人族の男の記憶しか無いし、周りの男達も似たような者達だったので冷静に判断できる獣人族がいるのかそれが気掛かりだ。
「どうですかね、かなりの賭けになってしまうと思いますが」
オスカリは椅子から立ち上がり頭を掻きながら部屋の中を歩き始めている。
俺の中ではこの話で決まってくれたらいいがもし駄目らな違う方法を試さないといけないが、もう一つの方法は少しだけ心が痛む。
オスカリはじっくりと考えているのでもう五分を過ぎてしまているのでもう後戻りは出来ない。
「う~ん、面白い話ではあるんだよな、ただな勝手に動くと帝国との間に問題が出てしまうんだよな」
「そうですか、それでは……」
「待ちなさい」
最後のつもりで帰るふりをすると上手く引き留めてくれた。
「仕方が無いな、少し帝国にも協力して貰った方が良いだろ、その為には司令官と話さんといけないな」
「俺も一緒に行きましょうか」
「いや、今回は商会の代表として行くのでは無くて貴族の権力を使わせて貰うからな」
貴族の中でも男爵は権力が弱い方だと思うが、それでも平民である司令官と渡り合える自信があるのだろう。
ただ、その交渉が失敗してもいいように私は私で動かないといけない。
◇
俺はいつ連絡がくるのか分からないので冒険者としての仕事は出来ず、アーリアも日帰りの仕事だけを選んで仕事している。
その間にリシオが得意としていた【転移】の魔法を身に付けようと思う。
結果は………………無理だった。
リシオの記憶から【転移】の魔法を覚えようとしたが、最初の段階でかなりの魔力を消耗してしまい、術が完成する前に意識を失ってしまう。
もっと魔力を鍛えてからだな。




