第三十五話 私の考え
「ねぇあれから何があったのよ、訳が分からないんだけど」
「ちゃんと話すからその目は止めてくれないかな、何か怖いんだよな」
この私はそれなりに人生経験を積んだので、若い女性であるアーリアの視線なんて大したことが無いはずなのだが、冒険者をしているだけあって迫力が違うのか背中に寒気を感じるので正直に話すしか無い。
此処の兵士は獣人族の子供を厄介者だとしか思っていない事。
俺達が勝手にやってくれた方が良いと思っている事。
戦利品はこっちで処理して構わないという事。
そして、あまり大袈裟にしたくない事。
私はそんな兵士に頼らず子供を故郷に返してあげたいと思った。ただこの考えは辻本としての私の考えなのか、それとも獣人族であった私の考えなのか分からないが、それでも良いと思っている。
単なるサラリーマンだった私にどこまで出来るのか分からないけど、この感情を無視して生きるのならこの世界でやり直す意味が無い。
「ねぇ何で笑っているのよ、ちょっと薄気味悪いんだけど、ねぇそれにあれは返して貰ったんでしょ」
「そうだね、それよりさただ俺だけではどう考えても無理そうだから、あの人に相談しに行こうと思うんだ」
バシッ
アーリアが間髪入れずに平手打ちをしてきたので、痛みと言うより驚きの方が上回った。
「へぇ私には相談はしないんだ」
「えっだってこれはかなり面倒な事になるんだぜ、こんな事にアーリアを巻き込む訳にはいかないだろ」
「あのねぇ、ちゃんと話を聞いたら手伝いたいと思うかも知れないでしょ、勝手に私を排除しないでくれるかな」
アーリアと正式なパーティを組んだわけじゃ無いし、それに子供達に構っている間は無収入となってしまうのだがそれでも良いと言うのだろうか。
「けどさ、あの子達を国に返すとなると身銭を切らなければいけなくなるかもしれないんだぞ」
あれだけの数の獣人族の子供を連れて港町に向かい、そこから海を渡って、リーボルト王国の兵士に理由を話す事になるのだが、そう上手くいくとも思わない。
今の私がインベルガーであるなら同じ獣人族として少しは事が回りそうだが、ただの冒険者である私がやるとなるとかなり問題が出てくると思う。
それを分かってここまでやる気になっている自分自身が信じられないのだが。
アーリアは答えを言わないまま奪った物を金に換えにいったが、司令官が言った様に思った以上に金にはならなかった。
「酷いな、まがい物ばかりなのかよ、後は大量の小銭がどれぐらい金貨に変わるからだな」
「そんなの分かるでしょ、これだけでは船に乗れないね」
獣人族を買いに来た奴らはまともな金額を払う気が無かったので、大袈裟な木箱に入れられたコインは全て銅貨だった。
もうこの世界にはいないが、もし目の前にいたら殴ってやりたい。
「ちょっとこんな所で落ち込まないでよ、恥ずかしいでしょ」
「なぁこの金で港町まで護衛を雇って行けるかな」
「港町エライサまでか、護衛はまず無理だね、ただ馬車を借りてそこで寝かせて、更に食費を切り詰めれば行けるとは思うけど、船賃はないよね、ねぇあんたもそんなお金は持っていないでしょ、これは無理があるんじゃないかな」
現実を考えると私達だけでは無理だと言う事が分かった。そうなると私がこれからする行動は一つしかない。
「さぁ気を取り直して行こうか」
「ねぇ誰に相談しに行くによ」
「俺がこの街にいる金を持っている知り合いなんて一人しかいないだろ」
当然のように私達が向かったのはオスカリがオーナーをしている商店で、オスカリは指示すれば良いだけの地位があるのに自ら行動するという事は、もしかしたらこの私の考えに乗ってくれるかもしれない。
店に到着するとアーリアは近くにいた店員に声を掛けようとしたが、背中を押して店の奥の方へ進んで行く。
近いからと言って手前にいるような若い店員に頼んだとしてもオーナーであるオスカリまで話が通るのは時間が掛かりそうだ。
その手間を省くためにも奥にいる、客よりも店員の動きに目を配っている男の声を掛けてみた。
「すみません。パルケス街からの護衛団の一人なんですけど、オスカリさんを呼んで貰えませんか」
「代表にどのようなご用件なのでしょうか」
出来れば執事に会いたかったが、見当たらない今はこの男に賭けるしかない。
それにオスカリはあの時は私に親切にしてくれたが、こんな冒険者の私がただ尋ねてきたか等と言って会う保証は無いだろう。
ここは必ず興味を引く様に伝言をお願いするしかない。
「あのですね、リーボルト王国との貿易に興味はありますかとお伝えください」
「リーボルト王国って獣人族の国ですよね、分かりました。確実に伝言を伝えて参ります」
どう出るか分からないが、嘘はつけないのでこれが精一杯だ。
「ねぇ何でそんな遠回りな言い方をするのよ、攫われた子供達を国に返したいって言えば良いじゃない」
「あのさぁ、あの人が親切心だけで行動する訳無いだろ」
失礼な言い方なのは分かっているが、彼は絶対に貪欲な男だと私の勘は告げている。




