第三十三話 街へ
一台の馬車に子供達を乗せ、更に奴らから奪った金目の物を積んでいるのでかなりの重量になってしまった。
う~ん、やはりあれを試すしか無いよな。
勇者の時に使っていた【空間倉庫】の魔法を使うと、手に触れた物が勝手に別の空間に飛んで行く。頭の中にはイメージとしてしまった物が積み重ねられるが、取り出したい物に意識を向けると何の不便もなく取り出せた。
これからの旅にとってかなり楽が出来ると思ったが、この魔法は今の私に身体には強力だった様で少し試しただけなのに気分が悪くなり、思わず座り込んでしまっている。
「ねぇ何やってんのよ、この重くなった馬車を引くために馬をもっと繋げるんでしょ」
「あぁそれか、中を見て見なよ」
「ちょっと、荷物はどうしたの」
「これなら今のままでいいよな、それにちゃんと後で話すから馬車の中で横になってもいいかな」
「しょうがないわね、それなら川を渡る時に起こすからそれまでゆっくりしてていいわよ」
奴らがちゃんと金貨にしていればこんな苦労は無かったのだが、一人一人から巻き上げると銀貨や銅貨が多いからその分しまうだけで疲れてしまう。
馬車の中では子供達が大人しくしてくれているが、まだやはりどことなく安心しきっていない雰囲気が流れていた。
「あの、これから僕達はどうなるのでしょうか」
話し掛けて来たのは犬のような顔をした最年長のあの男の子だ。
「そうだね、街の衛兵に相談するしかないけど、あいつらから奪った物を使って君達が国に帰れるようにするつもりなんだ。それしか言えなくてゴメンな」
すんなりその通りに行くかどうかは、フレイクの記憶を探っても分からないし、勇者の記憶の中にもその答えはなかった。
「ねぇシューヤちょっといい、ここから渡ろうと思うんだけど馬車は通れるかな」
「ちょっと待って、今行くから」
アーリアが渡ろうとしている場所は流れが穏やかなのだが、川幅が広くなっているので奥の方がどうなっているのか此処からでは分からない。
「馬だけだと泳いでくれるから良いんだけど、後があるからね、どうだろ」
「そうだよな……ムック、悪いけど調べて来てくれるか」
『分かりました。それでは行ってきます』
直ぐにムックは元の姿になって川の中に入って行く。身体の半分も水に入っていないので問題が無いと思ったが、アーリアが何故かジト目で私の事を見ている。
「どうしたんだ。何でそんな目で見るんだよ」
「あのさぁ、なんでそんな指示でムックが動くのよ、どう考えても言葉が分かっている様にしか見えないんだけど」
「そうだよな……リプレイ」
ムックはまだ渡り切っていないが、時間を戻して川の中を調べる事をしないでそのまま進むことにした。
水底の中の事をムックから聞いていないので、車輪が捕まってしまうのかそれが心配だったが、その心配は杞憂に終わり無事に川を渡る事が出来、森を抜けて順調に街に戻って来た。
城門では入る為の人の列が出来ているが、このまま並んで獣人族の子供が乗っている事が分かると騒ぎになりそうなので、俺が先に一人で中に入っていく。
「あの~すみませんけど、此処の責任者の方はどちらにいらっしゃいますか」
「何だね君は、わざわざ隊長を呼び出す必要があるのか」
「そうなんですよ、ちょっとよろしいですか」
誰にも聞こえないようにその兵士の近くによって小声で話し掛けた。
「何だと、それは本当なんだろうな」
完全には信じてくれていないと思うが、それでも私が言った事が事実なら大事になるのはあきらかなのでわざわざ門番は持ち場を離れて馬車にやってくる。
「この中かね」
「はいそうです」
門番がそっと馬車の扉を開けると、直ぐに顔色に変化が訪れワナワナと震えてきた。
「本当に獣人族の子供じゃないか、こんな事は前代未聞だぞ、それでこんな事をした連中は何処にいるんだ」
「大人が私達だけですので一人も生かさず処分しましたが、良いですよね」
「そうか……君達だけでか」
奴らの人数も聞いていないのにそんな風に驚かれるほど、この身体は貧弱では無いと思うのだが何が物足りないのだろう。
「あの、疑ってますか」
「そうじゃないんだ。すまないこんな事がこの街で起こるとは思っていなかったから頭が回らなかっただけなんだ。すまんな」
此処で待つように告げてから門番は急いで戻って行った。
「そんなに焦る事なのかな」
「当たり前でしょ、ただでさえこの国では港町ぐらいにしか獣人族はいないのに、それを裏で商売しようとしているって事は背後がかなり大きいのが分かったからでしょ」
「門番なんだからもう少ししっかりとして欲しいんだけどな」
そうだな私が、いやこの俺がこの国を変えてやる…………何を私は興奮しているんだ。誰の影響か知らないけど、そもそもこの今の私は勇者でもなければ魔王でも無い只の人間だと言う事を忘れてはいけない。
【リプレイ】の魔法が使えても即死すれば死んでしまうんだ。それにこの私よりも魔力が多い人間は滅多にいないと思うが、それで調子に乗ってはいけない。
記憶に中にある勇者や魔王の魔力にはどうあがいても少ないし、どんなに考えても今のこの身体では勝てる可能性はない。
多少の優越感に浸って生きて行けば良いじゃないか。




